稀代のホルニスト福川伸陽が“メメント・モリ”をテーマに現代の創作を紐解く

 横浜みなとみらいホールの「Just Composed in Yokohama —現代作曲家シリーズ—」は、新作委嘱を軸に、同時代音楽を未来へと継承することを謳うプロジェクト。シリーズで生まれた過去の委嘱作品を再び取り上げているのが非常にユニーク。2025年の新たな委嘱作曲家と再演作を選んだのが、ホルンの福川伸陽だ。公演のテーマは“メメント・モリ(死を忘れるな)”。

 「若い頃から“死”や、様々な文化の“死生観”について考えを巡らすことが多かったんです。現代音楽が好きで、作品を委嘱しているのは、『僕がいたからこの作品が出来たということならば、生きていた意味があると思えるから』でもあります。だから自分にとって原点回帰となる、非常に大事な公演です」

 プログラムの最後には福川が愛してやまないR.シュトラウスの「四つの最後の歌」が据えられた。

 「同時代のマーラーと比べても、R.シュトラウスって死について考え続けてきた作曲家ではないと思います。でもそんな彼でさえ死が近づくとああいう風に変わってしまった。それを皆さんがどう受け取ってくださるのかに興味があります」

 この曲を福川はこれまでホルン、ソプラノ、ピアノで演奏してきたが、今回ヴィオラを加えることに(山本哲也編)。共演するのはソプラノの小林沙羅、ピアノの務川慧悟、ヴィオラの中恵菜。この珍しい編成では他に、過去の委嘱作からの再演となる西村朗作品(代表作「2台のピアノと管弦楽のためのヘテロフォニー」直前の足跡を辿れる貴重な楽曲、神山奈々編)と、坂田直樹に委嘱した新作が演奏される。

 「西村先生への追悼の気持ちもありますが、この『雅歌II』という作品がテーマに合致していたのですぐに決まりました。そして色彩感のある音楽を書ける坂田さんがどんな音を生み出してくれるか、私自身も楽しみです」

 坂田は「現代の医療技術」をコンセプトに「臓器移植や体外受精など、生の拡張にまつわる問題」を意識して作曲中とSNSに投稿している。他にはピアノとのデュオで、プーランク「エレジー」(英国の名ホルン奏者デニス・ブレインへの追悼で、12音技法を意識した作品)とキルヒナー「三つの詩曲」、ホルン独奏でメシアン「恒星の呼び声」(若くして亡くなった教え子への追悼曲)が演奏される。

 「ブレインは自動車事故で亡くなったのですが、曲中には鈍いブレーキ音のように聴こえる部分があります。キルヒナー作品は有名なオルフェオとエウリディーチェ(日本でいえばイザナギとイザナミ)伝説を題材にしています。馴染みがない曲ばかりかもしれませんが、だからこそ、聴いてくださる皆さまの個性やその時の感情が出やすいのが面白いんです! 予備知識があろうがなかろうが受け取り方が全然違う。とても自由な感想をうかがうのが楽しいからこそ現代音楽を演奏したいんです」
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2025年2月号より)

Just Composed 2025 in Yokohama —現代作曲家シリーズ― メメント・モリ
2025.3/8(土)15:00 横浜みなとみらいホール(小)
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
https://yokohama-minatomiraihall.jp