生きるとはすなわち歌うこと——孤高のチェリスト ジョヴァンニ・ソッリマによるバッハ無伴奏

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 ジョヴァンニ・ソッリマがチェロを弾く。楽器が固有の声で鳴っている、というだけではない。ソッリマは弦を、記憶を、魂を、やむにやまれず掻き鳴らす。

 この場での新たな体験でありながら、懐かしさもある。自然の懐に抱かれるような広がりもあれば、静けさを呼び覚ます語りかけもある。そこにはしたたかな繋がりがあり、それがソッリマの音楽をより大きなもの、遥かなものに繋ぎ留めている。そのむかしバッハがそうであったように、人智と技芸を尽くすのは、過去と未来を結びながら、まさしく創造の神秘に触れるためだ。

 ソッリマは作品の内に生きる心の焔を、自身の責任において強かに呼び覚ます。バッハが大きな流れを結んだように、民族の歌が時代を超えて人々を渡るように、ソッリマはチェロで創造の鉱脈を掘り当てる。そのことは、古きバッハやダッラーバコでも、シベリウスでも、自作でも、ジミ・ヘンドリックスでも坂本龍一でも変わらない。どこまでも地続きなのは、ソッリマが多様な世界を冒険の磁場としているからである。

 ソッリマが弾けば、バッハも、故郷シチリアの民謡も、エンジェルも、違う土地に生まれ、おなじ魂の土を宿し、高く晴れた空に響く。折しもバッハの無伴奏組曲全曲を彼らしいユニークなかたちで3枚組アルバムにまとめたソッリマが、それら高峰を核として、精力的かつ縦横無尽に、新旧にわたる時をまたとない二夜に紡ぎ出す。

 生きることは、すなわち、歌うことである。ソッリマのチェロが切実に語るのはいつも、そうした人間の熱き性だ。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2025年1月号より)

ジョヴァンニ・ソッリマ 無伴奏チェロ・コンサート 2025
Giovanni Sollima plays BACH !
2025.3/25(火)19:00 浜離宮朝日ホール 
2025.3/26(水)19:00 紀尾井ホール
問:プランクトン03-6273-9307
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