【CD】A.スクリャービン:ピアノ作品集/三膳知枝

 スクリャービンの初期の小品を中心に集めたアルバム。エモーションへダイレクトに訴える魅惑の音楽を、三膳は実に淡々と弾いていく。ほとんどイン・テンポで、もったいぶったところや大げさな身振りとは無縁。声部の音色づけは丁寧かつ細やかで、和声やリズムのツボをさりげなく、しかし過たず突いてくる。構えの大きな作品では音勢がぐっと増すが、高揚感の生み出す息の乱れはほとんどない。そういう作品との絶妙の距離感によって、まるでプリズムを通過したかのように、その美の秘密が鮮やかに解析される。曲に語らせる姿勢を貫いた正攻法のスクリャービン演奏は、意外に新しいのかもしれない。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年12月号より)

【information】
CD『A.スクリャービン:ピアノ作品集/三膳知枝』

スクリャービン:24の前奏曲より、ピアノ・ソナタ第2番「幻想ソナタ」、3つの小品 op.2より、12の練習曲より、8つの練習曲より、2つの詩曲、幻想曲 ロ短調

三膳知枝(ピアノ)

コジマ録音
ALM-9272 ¥3300(税込)