ジョン・ブル。16世紀から17世紀にかけて英国で活躍した鍵盤音楽の大家で、ユニークな人物だ。学識は豊かだが、性格は激しいトラブルメーカー。その二面性は音楽にも反映されており、高度な対位法を駆使したファンタジアの一方で「私自身」のような自画像作品はどこか放埓、「ブル博士の『おやすみ』」のように楽しげだが死の不穏さを感じさせる曲も書く。当盤でのマチェイ・スクシェチュコフスキの演奏は全編でヴァージナルを用いているのが特徴だ。この時代の英国の雰囲気を伝える、輝きの背後に渋みと陰影が漂う鍵盤楽器が、奇想の音楽家の心の襞まで分け入ってゆくかのよう。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2024年10月号より)
【information】
CD『ジョン・ブル:ヴァージナル作品集/マチェイ・スクシェチュコフスキ』
ジョン・ブル:キャロル「御子がわれらに生まれたもう」、ラムリー卿のパヴァン、ラムリー卿のガリアード、ブランズウィック公のアルマン、ブランズウィック公夫人のトイ、私自身、ファンタジア第1番、同第15番、イン・ノミネ第5番、同第9番、ブル博士の「おやすみ」 他
マチェイ・スクシェチュコフスキ(ヴァージナル)
Ricercar/ナクソス・ジャパン
NYCX-10488 ¥3300(税込)