広上淳一(指揮)

「第5」を並べたベートーヴェンの王道プログラムで勝負!

©Greg Sailor
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広上淳一はNHK交響楽団に最も信頼されている日本人指揮者の一人である。昨年6月のN響韓国演奏旅行の指揮者に起用されただけでなく、今年も9月にN響定期公演の指揮が予定されている(今年N響定期を振る日本人指揮者は広上と尾高忠明だけ)。そんな広上が、3月のN響オーチャード定期に登場する。
「N響には、1985年、アシュケナージが弾くピアノ協奏曲の指揮という、ハラハラどきどきの洗礼を受ける思いでデビューしました。それがいつの間にか、団員の皆さんが僕より若い世代になりましたが、この歳になっても定期的に呼んでいただいていることに深く感謝しています。相性が良いんでしょうね。もちろんみんな優秀な人たちですが、“軍勢”を最強に仕上げるのが“大将”である私の仕事。N響の能力を最大限に引き出すことができればよいと思っています」
 3月の演奏会は、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」とピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ピアノ:ジャン・エフラム・バヴゼ)という「第5」を並べたプログラム。
「僕は5月5日生まれで、5という数字が好きなのです(笑)。交響曲第5番の第1楽章は何度やっても疲労困憊しちゃいますね。印刷されている八分音符を音にする瞬間にものすごいエネルギーを感じます。ベートーヴェンは何で一番最初を八分休符にしたのか。生理の裏側をついて、こんなに難しくなっている。最初の『うっ』の休符で疲れるんでしょうね。第2楽章は、僕の私見ですが、ベートーヴェンの緩徐楽章としてはダサい(笑)。第5番のスケルツォは、これも私見ですが、象さんのスケルツォと呼んでいます。中間部でダンボが踊り始めるようなイメージ。第4楽章は栄光と勝利の思想というか、苦悩から立ち上がる、勝利への願望を続けたら、ああいう作品になった。すごい作品だと思いますよ」
 「皇帝」についても広上独特の見解がある。
「変ホ長調が堂々とした揺るぎない存在を示しています。冒頭にカデンツァを持ってくるというところからすでに“革命児”。いろいろな意味で実験的ですね。第2楽章は、変ホ長調からは遠いロ長調という“シ”の音を主音としていますし、あの調性であの美しい楽章を作り上げたのは奇蹟に近いと思います。第1楽章で堂々と君主が登場し、第2楽章で君主が来賓の告白を聞いてやっている。そして第3楽章では話が合い、舞踏会に誘って一緒に踊り始めたんじゃないですか(笑)。そんなイメージですね」
 常任指揮者を務める京都市交響楽団が大きな飛躍を遂げるなど、指揮者としての評価をますます高めている広上淳一。デビュー30周年となるN響との共演がとても楽しみだ。
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年3月号から)

第83回 N響オーチャード定期
3/14(土)15:30 Bunkamuraオーチャードホール
問:Bunkamuraチケットセンター03-3477-9999 
http://www.bunkamura.co.jp