佐藤久成(ヴァイオリン)

若きヴァーチュオーゾたちが誘う妖しくも美しい世界

 現在、“鬼才”のニックネームが日本で最も似合うヴァイオリニストの一人、佐藤久成。ヨーロッパで長く活躍し、2003年に帰国した彼は、濃厚な音色と伸縮自在の歌い回しや、知られざる作曲家の作品に光をあてる独創的な活動で注目を集めてきた。近年はその才能を絶賛する音楽評論家・宇野功芳とのコラボで、演奏会や録音を多数実現させているが、宇野の企画によるこのリサイタル・シリーズも今回で4回目を迎える。プログラムは、有名作品から珍しい作品まで、あいかわらずバラエティに富んだ内容だ。
「モーツァルトの2つのソナタ(K.378&526)とバルトークの『ルーマニア民族舞曲』は、宇野先生のリクエストもあって選びました。先生は僕が無名の頃からずっと応援してくださっている“神様”のような方。ワルターやフルトヴェングラーをはじめとした往年の巨匠や、僕の音楽性に合った現代演奏家を色々紹介してくださるので、とても刺激になっています」
 アメリカ・オルガニスト協会の創設者フス、ラフマニノフやスクリャービンと同時期のロシアで活躍したグリエール、J.S.バッハ「G線上のアリア」の編曲者として知られるウィルヘルミなど、今回も知られざる作曲家の真価を問う。
「東京芸大を卒業して、渡欧した頃から絶版楽譜の蒐集にのめりこむようになりました。知られざる作曲家に光をあてることで、有名作曲家の“点”として捉えられることが多い音楽史が“線”として繋がり、“面”として広がっていく。それに無名な作品だからこそ、一から独力で取り組めるので、充実感が格別なのです」
 日本を代表するピアニスト、杉谷昭子と初共演するのも聴きどころだ。
「クラウディオ・アラウの最後のお弟子さんだった杉谷さんは、ずっと共演したかったピアニストの一人。先日プログラムをお送りしたら、『私のために選曲してくれたのかしら、と思うほど気に入りました』と喜ばれました。僕の音楽の基本にあるのは旋律よりも和声。杉谷さんは、新しい解釈や即興のインスピレーションを沢山与えてくださると思うので、お会いするのが本当に楽しみです」
 今回の公演と同時期に新譜の発表を控えていたり、その約1週間後に小林研一郎指揮・大阪フィルとの共演でチャイコフスキーの協奏曲を弾いたりと、充実した日々が続く佐藤。“鬼才”の躍進は2015年も止まりそうにない。
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年2月号から)

宇野功芳企画 第4弾 
佐藤久成 ヴァイオリン・リサイタル
2/22(日) 14:00 東京文化会館(小)
問:コンサートイマジン03-3235-3777 
http://www.concert.co.jp

小林研一郎(指揮) 大阪フィルハーモニー交響楽団
2/28(土)15:00 ザ・シンフォニーホール
問:ザ・シンフォニーチケットセンター06-6453-2333 
http://www.asahi.co.jp/symphony