作曲家と恩師ゆかりの銘器でレーガー作品の真価を問う
20世紀最高のマックス・レーガー弾きとして、高い評価を受けたオルガニスト、ハインツ・ヴンダーリヒ(1919〜2012)。その薫陶を受けた池田泉は2023年に招聘を受けて、ドイツのハレでレーガー生誕150年を記念する演奏会を行った。そのライブ録音が今回、CDとなって発売される。
ヴンダーリヒは生前、ハンブルクの聖ヤコビ教会のカントルとして著名であったが、1943年から58年に西ドイツへ亡命するまで、ハレの聖モーリッツ教会のカントルをつとめていた。池田は記念イヤー前年の2022年、このオルガンを試奏する機会に恵まれた。
「実際に弾いてみると、先生が教えてくれたレーガーの演奏解釈が、そのままその通り弾ける楽器だと気づいたのです」
その演奏を聴いた同教会のゴイター氏は「こんな風にレーガーを弾ける人はいない!」と絶賛し、翌年の演奏会を依頼してきたという。ゴイターは、オルガンの修復をめぐって生前のヴンダーリヒと親交があり、その教え子の来訪を歓迎した。恩師がめぐり合わせてくれた機会に池田は「レーガー演奏の第一人者だった先生に所縁のある教会で、生誕150年の記念演奏会をできるわけですから、これは録音を残そうと思った」と話す。
ヴンダーリヒのレーガー解釈とは、どのような特徴があるのか?
「レーガーの作品は楽譜通りに弾いても、ねらった効果が出ない、際立たせたい声部が埋もれるなど、当時のオルガンの演奏補助装置を効果的に使えていない箇所があります。生涯にわたってレーガーの友人で、ライプツィヒ聖トーマス教会のカントルであったカール・シュトラウベは、彼の作品を初演する際、そうした箇所を、聴き手に“聴こえる”ように『演奏家としての工夫』を加えて楽譜を変更しました。シュトラウベ門下のヴンダーリヒ先生も、そのレーガー解釈を受け継いでいるのです」
こうした解釈は1980年代以降、古楽ブームの台頭とともに、作品の意図を「壊すもの」として批判されるようになったという。しかし池田は「シュトラウベを評価していたからこそ、レーガーは生涯を通して作品の初演を彼に頼り、楽譜の変更も容認していた」とし、クレッシェンド・ヴァルツェ(演奏台足元のロールを回すと設定順にレジスターが増減されるシステム)など、レーガー時代のオルガンの演奏台操作の現実に即した、同時代の名演奏家による一つの演奏スタイルと捉えるべきではないかと考える。「今ではあまり評価されないヴンダーリヒ先生から習った解釈を記録に残せたことは、本当に嬉しく思っています」という池田。今回のCDはレーガーの演奏解釈に再考を促す一枚として期待される。
取材・文:加藤拓未
(ぶらあぼ2024年6月号より)
CD『マックス・レーガー オルガン作品集』
コジマ録音
ALCD-9264
¥3300(税込)