小野絢子(新国立劇場バレエ団プリンシパル)

 大作『眠れる森の美女』でシーズンの幕を開けた新国立劇場バレエ団。さまざまな作品で今シーズンも快進撃を続けているプリンシパル小野絢子の次の出演作は、3月の『トリプル・ビル』。そのなかでのバランシン振付『テーマとヴァリエーション』への出演が決まっている。
「以前から、なんてゴージャスなバレエ!と思っていました。現代作品ではないけれど、バランシンの作品は踊るたびに、今もって新しく感じられます。テクニック的に非常に難しく、テクニックも体力もぎりぎりのところでやるので、そこから生まれるエネルギーが作品に溢れ、踊っていると大きな充足感があります。彼の作品は毎回チャレンジングな気持ちにさせられます」
 その音楽性の高さから、“目で見る音楽”と評されるバランシン。ダンサーとしてどのように感じているのだろう。
「踊りながら、そこにわざわざ色をつけようと考える余地、隙間がありません。振付が音楽そのものであり、彼の中で完成されています。振付を信じ、そのまま表現できれば—本当に難しいことなのですが—きっと観ている方に伝わる、そういう作品だと思います」
 異なるタイプの3作品が上演される『トリプル・ビル』は、観客が多彩な作品に触れるチャンス。今回は、バランシン、ドゥアト作品に加えて、新制作ロバート・ノース振付『トロイ・ゲーム』が初演される。男性ダンサーだけの作品だ。
「出演するダンサーたちは、クラスレッスンでも生き生きして見えます。作品によってはオーディションで出演者が決まり、現状では、ファーストキャストでプリンシパルが踊っているパートに、セカンドではコール・ド・バレエのダンサーが入っていたりするのですが、ダンサーそれぞれの味が出ているのが見ていて面白いですね。
 このようなプログラムですと、古典バレエでは見えにくいダンサー一人ひとりの個性が浮かび上がったり、本人も『こういう作品が好きなんだ!』と、さまざまな発見ができます。バレエ団には階級があり、通常ソリストはソリストの役を踊るのですが、『トリプル・ビル』には、オーディションを経て役をつかむスリリングさもあります。若手が頭角を現すチャンスにもなりますし、私たちも緊張感をもって臨んでいます」
 そして4月はローラン・プティ振付『こうもり』。小野が演じるベラは人妻、5人の子持ち、夫とは倦怠期を迎え…、とバレエのヒロインとしては異色の設定だ。
「登場からして、山に積まれたお皿を持ち、顔をだして白目を剥くという(笑)。彼女の年齢、立場は私には経験がありませんので、想像力を働かせ、また初演の映像を何度も見て、プティさんがどういうイメージで作ったのかを研究しました。主婦の日常は、母や身近な人の行動も参考になります」
 皿や電話など小道具使いもこの作品の楽しさのひとつ。
「ものを使って表現するにもテクニックは必要ですし、感情だけではできないこともたくさんあります。芝居の要素も多く、マイムだけでいろいろな内容を伝えなければなりませんが、わかりやすく、でも決してやりすぎてはいけないので、そこのさじ加減も難しいです」
 音楽はおなじみJ.シュトラウスⅡ。バレエではオペレッタと同じメロディがさまざまな形で登場する。
「同じメロディにもいろいろな感情がこめられています。オペレッタをご存知の方には、違いも楽しんでいただけると思います。バレエでは、ベラの衣裳がシンプルになればなるほど、彼女の魅力が際立っていきます。そこにも注目していただければと思いますね。お芝居の要素もたくさんありながら、見せ場は踊りになってくる、計算されつくした構成です」
 2月公演『ラ・バヤデール』(〜2/22まで)に続き、パートナーはゲスト・ダンサー。新しい体験が彼女をまた成長させるだろう。
「これで満足ということは決してありません。目の前にあることを一つひとつクリアしていけば、その先にまた次が見えてきます。その作業をやめない限り、伸びてゆけると思います」
取材・文:守山実花 写真:藤本史昭
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年3月号から)

新国立劇場バレエ団
『トリプル・ビル』3/14(土)〜3/22(日) 新国立劇場(中)
『こうもり』4/21(火)〜4/26(日) 新国立劇場 オペラパレス
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet