歴史に残るようなCDにしたい
世界最古のクラシック音楽専門レーベルであるドイツ・グラモフォン(DG)は、このたびピアニストの辻井伸行とグローバル専属契約を結んだことを発表した。日本人ピアニストとのグローバル契約は、同レーベルの125年を超える歴史のなかで初の快挙となる。
4月22日、サントリーホールのブルーローズ(小ホール)で行われた記者会見には、辻井のほか、DG社長のクレメンス・トラウトマン、ユニバーサル ミュージック合同会社社長兼最高経営責任者(CEO)の藤倉尚が登壇。あらたなステージへと歩みを進める喜びを、辻井は以下のように語った。
「子どもの頃からドイツ・グラモフォンの世界の素晴らしいアーティストの演奏をたくさん聴いて育ってきたので、今回憧れのDGと契約できることになって非常に光栄ですし、責任も感じています。デビュー・アルバムはベートーヴェンの『ハンマークラヴィーア』という難しい曲ですが、歴史に残るようなCDにしたいです。世界への第一歩としてのスタートラインに立てたのではないと思います」
辻井伸行は、2009年、第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで日本人初優勝。ニューヨークのカーネギーホール、ウィーン楽友協会、ベルリン・フィルハーモニーなど世界の名だたるホールでリサイタルを行うなど海外でも人気を博し、昨年9月には、2013年以来2度目となるロンドンのBBCプロムスに出演。ドミンゴ・インドヤン率いるロイヤル・リヴァプール・フィルと共演し、約7000人の聴衆から喝采を浴びた。これまでは、辻井のマネジメントを手がけるエイベックス・クラシックスからCDをリリースしていたが、今回のGDとの契約をきっかけに、演奏活動もあらたな展開をみせることになりそうだ。
まず今年夏以降に、これまでavexレーベルからリリースされていた旧譜約15本の音源がDGからワールドワイドで再配信される(海外ではDGロゴで発売)。また、7月にベルリンのテルデック・スタジオでレコーディングが予定されている、DGレーベル移籍第1弾のアルバムは、2025年初頭にリリースの見込み。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」op.106を含むプログラムだという。「30代になってからは、音色の使い分けも徐々にできるようになった」と語る辻井だが、ベートーヴェンのソナタのなかで最も長大かつ難曲であるこのソナタを選択したことからも、その意気込みが感じられる。
会見では、辻井がリストの「愛の夢第3番」と「ラ・カンパネラ」を披露した後、トラウトマン社長からDGの配信サービス「STAGE+(ステージプラス)」の紹介も行われた。同社は近年、年間50回以上のライブ配信や豊富なコンサートやオペラの映像のアーカイブ配信を実施するこのプラットフォームに特に注力しており、5月18日20時から、辻井による今年2月のサントリーホールでのリサイタルの映像がプレミア配信されるという。「辻井さんの素晴らしい芸術性、音楽性を世界に届ける」と力を込めるトラウトマン社長。辻井自身は、「ベートーヴェンの後は、まだ検討中」ということだったが、今後どのようなレパートリーを録音に残していくのか、30代半ばを迎えたピアニストの今後に注目したい。
写真&文:編集部
【Information】
STAGE+(ステージプラス)
「辻井伸行プレイズ・バッハ、ショパン&ラフマニノフ」
2024.5/18(土)日本時間20:00〜(アーカイブ配信もあり)
バッハ:フランス組曲第5番 ト長調 BWV816
ショパン:即興曲第1番 変イ長調 op.29
ショパン:即興曲第2番 嬰ヘ長調 op.36
ショパン:即興曲第3番 変ト長調 op.51
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 op.66
ラフマニノフ:ヴォカリーズ op.34-14(アラン・リチャードソンによるピアノ編曲版)
ラフマニノフ:楽興の時 op.16
(2024.2/28、サントリーホールで収録)