コントラバスの可能性を限界まで追い求めて
3月15日の開幕が迫る、東京・上野を舞台にしたクラシック音楽の祭典「東京・春・音楽祭 2024」。今年も国内外の一流アーティストが出演する豪華ラインナップが出揃った。中でも上野という立地を活かし人気企画として親しまれているのが、美術館・博物館で行われる「ミュージアム・コンサート」だ。3月17日にはコントラバス奏者の幣隆太朗が登場。当初はN響コントラバス首席の吉田秀（よしだ しゅう）とのデュオが予定されていたが、体調不良により吉田が出演できなくなったため、幣のリサイタルに変更し開催することになった。
幣は東京藝術大学在学中に渡独、ヴュルツブルク音楽大学を経て、当時ダニエル・バレンボイムが首席指揮者を務めていたシュターツカペレ・ベルリンのアカデミーで研鑽を積む。そして2007年、名門シュトゥットガルト放送交響楽団（現・SWR交響楽団）に入団、10年以上ドイツ第一線のオーケストラで活躍を続けている。現在、同楽団は世界中が注目する指揮者のひとり、テオドール・クルレンツィスがシェフを務めている。彼のタクトで演奏してきた幣は次のように語る。
「指揮台に立った時の楽団員を惹きつけるオーラがとてつもない。彼が指揮した時の音の唸り方は、僕の人生のなかでも5本の指に入るくらい衝撃的でした」
一方、国内においては、2010年からサイトウ・キネン・フェスティバル松本（現・セイジ・オザワ 松本フェスティバル）に参加し、小澤征爾の指揮を経験している。
「初参加は小澤さんが病気から復帰された直後でしたが、凄まじい気迫で、現実世界とは思えないサウンドが鳴っていました。僕にとっては神様のような存在です。共演した作品どれもが印象的で、音楽観が全て変わってしまうくらい影響を受けました。自分が奏でる音楽の理想にもなっていて、1ミリでも近づけるように努力を重ねています。小澤さんの記憶は、一生僕の中で生き続けると思います」
また、ベートーヴェンの七重奏曲をレパートリーのメインに据えることを想定して結成されたルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズ・シュトゥットガルトも幣を語る上で欠かせない。白井圭（ヴァイオリン）、横坂源（チェロ）、SWR響の外国人奏者らとともに日本やドイツで度々ツアーを行っている。
そして、幣はオーケストラや室内楽だけでなく、コントラバス奏者としてはめずらしくソロでの演奏も大切にしている。この楽器が秘める未知なる可能性を探求し、毎年攻めたプログラムでリサイタルを開催してきた。
3月17日のミュージアムコンサートでは、ヒンデミットのソナタといったコントラバスのオリジナル作品に加え、シューマン「アダージョとアレグロ」、シューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」などを披露する。ピアノは、2018年のミュンヘン国際音楽コンクール・ピアノ三重奏部門を制した「葵トリオ」のメンバーでもある盟友・秋元孝介が務める。
「秋元さんはアンテナが非常に敏感で、目の前のソリストが一番生きるであろう音楽を常に表現してくれます。一回合わせただけですべて理解できる、彼にしかない特殊な能力だと思います。
先日もアルペジオーネ・ソナタで共演しましたが、舞台上で会話をしているような感覚でした。デュオパートナーとして共演を続けて10年以上になります。僕たちにしかできない演奏があると信じています」
最後にこの公演にかける想いを語った。
「当初は吉田さんとデュオを演奏する予定でした。指名していただいた時、嬉しく意気に感じていたので共演が叶わず非常に残念ですが、彼の想いも背負って心を込めて演奏します」
東京・春・音楽祭 2024
ミュージアム・コンサート 幣隆太朗（コントラバス）
2024.3/17（日）14：00 国立科学博物館 日本館2階講堂
●出演
コントラバス：幣隆太朗
ピアノ：秋元孝介
●曲目
シューマン：アダージョとアレグロ 変イ長調 op.70
一柳慧：空間の生成
ピアソラ：アヴェ・マリア、忘却、キチョ
ヒンデミット：コントラバス・ソナタ
シューベルト：アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D821
●料金（税込）
¥4,500（全席自由）
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