In memoriam ステファン・グールド

Stephen Gould 1962-2023

 世界的なテノール歌手で、ワーグナー歌いとして名高い、ステファン・グールドが9月19日、胆管がんで死去した。享年61歳。

 アメリカ・ヴァージニア州生まれ。ミュージカル『オペラ座の怪人』の出演で頭角を現し、2004年にドイツ・バイロイト音楽祭にデビュー。ウィーン国立歌劇場、ザクセン州立歌劇場、バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場をはじめとする主要歌劇場に出演。英雄的でドラマティックな声を意味する「ヘルデンテノール」を代表する一人で、国際的に活躍してきた。

 この夏のバイロイト音楽祭では、《神々の黄昏》ジークフリート、《トリスタンとイゾルデ》トリスタン、《タンホイザー》タンホイザーにキャスティングされていたが、健康上の理由で降板。先月末に引退を発表し、今月に入り、10ヵ月の余命宣告を受けたと自身のウェブサイトで公表していた。

 日本では新国立劇場の舞台をはじめたびたび来日。8月に亡くなった飯守泰次郎指揮で、新国立劇場の楽劇《ニーべルングの指環》全4部作(15年《ラインの黄金》ローゲ、16年《ワルキューレ》ジークムント、17年6月《ジークフリート》タイトルロール、17年10月《神々の黄昏》ジークフリート)や、21年の東京シティ・フィル「《ニーベルングの指環》ハイライト特別演奏会~飯守泰次郎 傘寿記念~」の出演が話題となった。最後の日本での舞台は、今年1・2月に上演された新国立劇場《タンホイザー》での題名役。変わらぬ力強い歌声を劇場に響かせていた。

新国立劇場《ジークフリート》(2017年)のゲネプロより 撮影:編集部

 バイロイト音楽祭は訃報に接し、グールドを「長距離ランナー」と例え、「2004年にバイロイト音楽祭に初登場し、22年まで100回近い公演で歌ってきた。(中略) 驚異的なスタミナ、抑えがたい好奇心、そして同僚に対する最高レベルのプロ意識は、彼の存在を際立たせていた。その独特の歌声と舞台での存在感で私たちに忘れがたい夜を何度も与えてくれたことに感謝している」とコメントとし、生前の功績を讃えている。