In memoriam カイヤ・サーリアホ

Kaija Saariaho 1952-2023

 フィンランド出身で、現代ヨーロッパを代表する作曲家であるカイヤ・サーリアホが、6月2日、パリの自宅で亡くなったことが家族の声明により明らかになった。享年70歳。2021年に脳腫瘍の一種である膠芽腫と診断されていたといい、運動神経機能にもさまざまな支障をきたすなか、創作活動を続けていた。

©Maarit Kytöharju

 サーリアホは、1952年ヘルシンキ生まれ。ヘルシンキ工芸大学でヴィジュアルアートを学んだ後、シベリウス音楽院で作曲を専攻。フライブルクとダルムシュタットではブライアン・ファーニホウやクラウス・フーバーに師事。最先端の欧州現代音楽シーンに触れる。IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)で研究を進め、作曲家としてのキャリアをスタート。コンピュータを用い、ライヴ・エレクトロニクスをとり入れた彼女の作曲スタイルは、神秘的とも言える独創的な音響世界を生み出した。色彩感や質感に優れたその音楽は、1980年代から、声楽、管弦楽、室内楽など幅広い分野で世界的な評価を得るようになった。2000年、ザルツブルク音楽祭で初演された《遥かなる愛 L’Amour de loin》を皮切りにオペラの創作も手がけるようになり、同作品は2016年にニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)でも上演された。

 レジデント・コンポーザーとして世界各国から招聘されることも多数。日本では、2015年、東京オペラシティの同時代音楽企画「コンポージアム」がサーリアホを迎えて行われ、前述の《遥かなる愛》が演奏会形式で上演された。また、武満徹作曲賞審査員も務めた。翌16年にも、サントリー芸術財団サマーフェスティバル(現サントリーホール サマーフェスティバル)でテーマ作曲家としてとりあげられ、ハープ協奏曲「トランス(変わりゆく)」が世界初演されるなど、その作品が日本国内でも広く知られる機会となった。日本の伝統文化にも造詣が深く、最後の来日となった2021年6月には、国際共同制作による能を題材とした室内オペラ《Only the Sound Remains -余韻-》が東京文化会館で日本初演された。

 2021年には、ヴェネツィア・ビエンナーレの音楽部門で金獅子賞を受賞。22年にはオペラ《イノセンス》(2018)がフランスで最も権威のあるヴィクトワール・ド・ラ・ミュジーク(作曲部門)を受賞している。亡くなる直前の数ヶ月は、トランペット協奏曲「Hush」の創作に取り組んでいたという。作品は、8月24日、ヘルシンキでヴェルネリ・ポホヨラ(トランペット)とスザンナ・マルッキ指揮フィンランド放送交響楽団によって初演される予定。

Kaija Saariaho
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