才人と鬼才が表すクラシックの“現在”
読売日本交響楽団の6月定期は、指揮者/クリエイティヴ・パートナー、鈴木優人の登場。古典と現代の音楽に通じたマルチな才人・鈴木は、これまでも両者を組み合わせたプログラムで、聴く者に新鮮な感覚をもたらしてきたが、今回はそのものズバリの2曲プロを披露する。
前半は、1989年生まれのフランス人作曲家バンジャマン・アタイールのチェロ協奏曲「アル・イシャー」(日本初演)。アタイールは西洋と東洋を融合させた独自のスタイルで注目を浴びている作曲家。本作は、イスラム教徒が日に5回行う礼拝の最後にあたる夜の礼拝(イシャー)に着想を得た、いわば「夜の祈りの音楽」だ。今もレバノンに一部の家族がいる作曲者は、礼拝を呼びかける声「アザーン」に惹かれたとの由。同曲では、一人が発して複数のグループへと広がる音楽のイメージが、独特のリズムとサウンドで描かれる。ソロを弾くのは、幅広いレパートリーで変幻自在の演奏を聴かせる世界屈指の名チェリスト、ジャン=ギアン・ケラス。本作は彼が2021年に世界初演した掌中の1曲だけに、この鬼才が創造する陶酔的な異空間への期待は大きい。
後半は、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。ご存じ本作は、フランス革命とも関連性のある、まさに革命的な大曲だ。ピリオド・スタイルを熟知した鈴木だが、モダン・オケでは、現代の視点からスコアを見つめ直した、清新な古典演奏を聴かせる。今回は、交響曲の歴史を変えたその革新性を、現代作品に触れた直後の耳で再体験したい。これは、前後半を通しての感触が興味深い、刺激に充ちた公演だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年6月号より)
第629回 定期演奏会
2023.6/13(火)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp