2010年9月、18年ぶりに来日する英国ロイヤルオペラハウス(ROH)の総支配人トニー・ホールが去る11月に来日し会見を行った。元BBCニュースのチーフ・エグゼクティブとして活躍していたホールは、そこで培った豊かな発想力と現場を見据える多角的な視野と行動力によって、危機的な状況にあったROHに財政的な安定をもたらした立役者である。彼の試みは実に多彩だ。ざっと紹介すると「タブロイド紙(大衆紙)の読者を対象にオペラのチケットを格安の料金で販売する」「大スクリーンを用いてバレエを無料公開したりYou Tubeでオペラのショートフィルムを流す」「オペラやバレエのファン拡大に繋がるという見地からオーパス・アルテ社を買収しROHの公演を積極的にDVD化し販売を行う」「SONYと提携して最新の舞台を高画質で世界各地の映画館で上映する」などなど。こうした新機軸は実を結び、現在のROHの観客層の約半分はオペラ初心者だという。しかも劇場の稼働率は93パーセントとのこと。
世界的な不況のなかROHの経営が順調なのは、政府からの助成に全面的に頼るのではなく、初心者や子どもたち向けに実施しているエデュケーショナル・プログラムやバックステージなどの企画の意義を理解してくれる個人からの寄付が増えていることも大きな要因だという。示唆に富む発言に満ち、今後はどんなプロジェクトをたちあげるのか興味深い。