五嶋みどりがデビュー40周年を機にリリースした集大成的なベートーヴェン録音。芳醇でこまやかな彼女のヴァイオリンと、出過ぎずして雄弁なティボーデのピアノが、同一のベクトルで「ピアノとヴァイオリンのための」ソナタを共奏した、ナチュラルかつハイクオリティの全集だ。特筆されるのは、前半の楽曲でしなやかにピアノに寄り添っていたヴァイオリンが、徐々にピアノとの対等性を増していき、「クロイツェル」では丁々発止の迫真的な二重奏を展開するなど、楽聖が描いた同ジャンルの性格の移ろいが見事に示されている点。全体に緩徐楽章の豊かな味わいも印象的だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年1月号より)
【information】
SACD『ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのための ソナタ全集/五嶋みどり&ジャン=イヴ・ティボーデ』
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番〜第10番
五嶋みどり(ヴァイオリン)
ジャン=イヴ・ティボーデ(ピアノ)
ワーナークラシックス
WPCS-13839/41(3枚組) ¥7590(税込)