名ソリストが究める室内楽の奥義
このカルテットは、究極の形態にして通好みとされる弦楽四重奏を、より親近感あるものと思わせてくれるに違いない。なぜなら、「テツラフ・カルテット」の名の通り、現代屈指の実力派ソリストとして世界的人気を誇るドイツのヴァイオリニスト、クリスティアン・テツラフが率いているからだ。もちろん弦楽四重奏は4人の均衡が最重要だが、ヴァイオリンにバンベルク響元コンマスのエリーザベト・クッフェラート、ヴィオラにチューリヒ歌劇場管コンマスのハンナ・ヴァインマイスター、チェロにドイツ・カンマーフィルの首席奏者でテツラフの妹ターニャ・テツラフを配し、1994年の結成以来20年にわたり、欧米の国際音楽祭やウィーン・ムジークフェライン、コンセルトヘボウなどの著名ホールで演奏を重ねているから、バランスや呼吸も文句なし。それゆえ個々の妙技と精緻なアンサンブルを兼備し、「世界でもっとも魅力あるアンサンブルのひとつ」(伊誌)と賞されている。
日本初上陸で注目される今回は、プログラムもいきなり勝負がかり。モーツァルトの名作ハイドン・セット唯一の短調四重奏曲である第15番、1973年ドイツ生まれのヴィトマンの「狩りの四重奏曲」、至高の傑作群たるベートーヴェン後期を代表する四重奏曲の第15番が並んだ演目は、濃密で歯応え満点だ。2つの「15番・短調」は、古典派両雄の比較と最高峰弦楽四重奏曲の醍醐味を同時に堪能させてくれるし、名クラリネット奏者でもある異色の作曲家ヴィトマンの作品も実に興味深い。ここは、テツラフのソロ同様に誠実で活力溢れるカルテットの豊穣な音楽に、どっぷりと浸ろう!
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)
10/7(火)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp