スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(指揮) 読売日本交響楽団

91歳の巨匠が魅せる“気迫の神化”

スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ (C)読売日本交響楽団 撮影:青柳聡
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ (C)読売日本交響楽団 撮影:青柳聡

 この人は、枯れることを知らない。むろん円熟の味はある。しかし音楽はいつも生気に充ちていて推進力抜群。響きやフレーズは絶妙なバランスで構築され、聴き慣れた楽曲にも新たな発見をもたらす。かくも覇気漲る老匠は前代未聞かもしれない…。それがスタニスラフ・スクロヴァチェフスキだ。昨年10月、ショスタコーヴィチの5番を立ったまま指揮し、日本で90歳の誕生日を祝ったこの巨匠が、今年10月再び、桂冠名誉指揮者を務める読響に登場する。
 演目は、ブルックナーの交響曲第0番とベートーヴェンの交響曲第7番。共に前記の特質が生きる、スクロヴァでこそ聴きたい2作品だ。ブルックナーの0番は、第1番の後に完成されながら、「ヌルテ(0番、無効等の意)」と記された謎の交響曲。だが昨秋マエストロにインタビューした際、「作曲者が破棄せずに“0番”と番号を付けた。私はその意味の重大性を深く考えている」と語っていた。これは、後の名作と違った颯爽たる趣と後年を予感させる書法が同居した面白い作品であり、第2楽章などすこぶる美しい。生演奏が稀な同曲を、スクロヴァ&読響で体験できるとなれば、聴き逃せないのは明白だ。そしてベートーヴェン。昨年リリースされた当コンビによる3〜5番のCDでの、細部が息づく引き締まった名演から、7番への期待も大きい。第2楽章“不滅のアレグレット”や第4楽章の狂喜乱舞がいかに表現されるのか? ワーグナーの言う「舞踏の神化」をまさしく具現化した、稀有の7番出現の予感に充ちている。
 彼がいくら元気でも、今後の公演が一期一会であるのは言わずもがな。全ての音楽ファン必聴だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)

第11回 読響メトロポリタン・シリーズ
10/8(水)19:00 東京芸術劇場コンサートホール
第541回 定期演奏会
10/9(木)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
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