東京フィルハーモニー交響楽団 2023シーズン 定期演奏会の聴きどころ

充実の指揮者陣と難関コンクール入賞者たちで贈る豪華ラインナップ

 東京フィルの年間プログラムは、豪華なお節料理のようだ。華やかで、バランスよく中身もぎっしり詰まっている。来シーズンは、名誉音楽監督チョン・ミョンフン、首席指揮者アンドレア・バッティストーニ、特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフが、それぞれ2回ずつ定期公演を担当。そこに桂冠指揮者の尾高忠明、若手枠にフランスのクロエ・デュフレーヌが加わる。チャイコフスキーやラフマニノフなど、アニバーサリーの作曲家を中心としたプログラムも充実している。

 チョン・ミョンフンは、今年も意欲的なプログラムを組んできた。1月は、シューベルトの「未完成」交響曲、ブルックナーの交響曲第7番を取り上げる。マエストロ・チョンのブルックナーは久々。そのエレガントで巨大な演奏が期待できるはずだ。

 7月は、演奏会形式でヴェルディの《オテロ》。今年の《ファルスタッフ》公演は、オペラ・オーケストラとして実績が多い東京フィルならでは、コンサートホールを歌劇場へと変貌させた。今回はチョン・ミョンフンが得意とする《オテロ》だけに、聴き逃せない一夜となる。

 バッティストーニも勢いのいい演奏を聴かせてくれるだろう。3月は、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」をメインに、ベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」とカゼッラ(生誕140年)の狂詩曲「イタリア」。フランスとイタリアのテンション高めの作品をそろえた。バッティ節が火を吹くこと、間違いなし。

 11月は、オール・チャイコフスキー(没後130年)。「ハムレット」と「ロメオとジュリエット」の2つの幻想序曲を中心に、交響曲の入らない構成もユニーク。気鋭のチェロ奏者、佐藤晴真との共演で「ロココの主題による変奏曲」が聴けるのも嬉しい。

 プレトニョフもロシア作品を中心に、手堅いプログラムで聴かせる。2月は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番をイム・ユンチャンと共演。今年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝したばかりの逸材だ。チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」も、円熟した解釈による演奏が期待できる。

 5月はオール・ラフマニノフ(生誕150年)・プログラム。作曲家の最初期(幻想曲「岩」)、円熟期(交響詩「死の島」)、最晩年(交響的舞曲)の作品を並べ、その色彩の渦に巻き込まれるような興趣をもたらしてくれよう。

 その翌月(6月)、今度は尾高忠明がラフマニノフを取り上げる。亀井聖矢とのピアノ協奏曲第2番に交響曲第1番。端正で構造を重視した解釈が、とりわけ若い情熱が詰まった交響曲を鮮やかに、そしてロジカルに響かせてくれよう。これらと組み合わされるのは指揮者の兄で昨年亡くなった尾高惇忠の作品。オーケストラのための「イマージュ」は、尾高忠明と東京フィルで1981年に初演された作品でもある。

 デュフレーヌは、指揮者の殿堂シベリウス・アカデミーを卒業、ロサンゼルス・フィルでグスターボ・ドゥダメルのアシスタントを務めるフランスの若手だ。東京オリンピック2020の閉会式で、次期開催地のパリのプレゼンテーションに登場、フランス国立管弦楽団を指揮して「ラ・マルセイエーズ」を颯爽と演奏した姿を見た人も多いのではないか。

 10月定期で彼女が指揮するのは、リリ・ブーランジェ(生誕130年)の「春の朝に」、ソリストに中野りな(今年の仙台国際音楽コンクール優勝者)を迎えてサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番、そしてベルリオーズの幻想交響曲だ。世界各地で活躍が期待されている来シーズン、日本でもデビューを果たすデュフレーヌが、東京フィルからどのようなサウンドを引き出すのか。じつに楽しみだ。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2022年12月号より)

問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 
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※2023シーズンの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。