“あの”オペラがパワーアップして帰ってくる!
カウンターテナー界の第一人者であり、演出家や著述家としても引っ張りだこの彌勒忠史。この秋には開館20周年になる横須賀芸術劇場のキーマンとして、2011年に大好評を得たオペラ《泥棒とオールドミス》の再演など一連の企画を手掛けるという。
「千葉大学で歌舞伎の歴史を研究し、そこでオペラの面白さに目覚めまして、東京芸術大学に入って声楽を学びました。子供の頃から好奇心が人一倍強く、いろんなことをやってみたいタイプですが、どれも自分の中から自然に湧き出る思いなんです。例えば演出家の職って、いわば近代の『発明品』ですね。歌舞伎の古典作でも当時は演出家などいなくて、座長の俳優が舞台でいろいろ指示していたはずです。だから、逆に考えたなら、歌い手の自分が演出に携わってもそんなに不思議ではないでしょう。現代ではいろんな仕事が細分化し過ぎで、その中で駒になっているだけで良いのかなと疑問にも思います。そこで、何かを表現したいなら、その時に一番上手く出来る手段を通じて自分の感覚を打ち出そうと考えるようになりました。つまりは、僕という素材を使っていろんなパフォーミングアーツをやってゆくだけ。文章を書くのもオペラを演出するのもその一環です!」
彌勒のこの独創性をいち早く見抜いたのが、数々の名物企画を誇る横須賀芸術劇場。20年前の開場時には、まだ学生ながら歌手としてコンサートに参加していたので、この劇場と共に歩んだという思いは強い、という。
「今回は『みろくのみりょくシリーズ』と銘打ち、ジャズと初期バロックの融合コンサートや、子供たちと『劇場で遊ぶ一日』も開催しますが、第1弾はやはりオペラでと思い、2011年に好評を博したメノッティの《泥棒とオールドミス》を再演します。闖入者の青年ボブを巡ってオールドミスの二人や若いお手伝いが繰り広げる騒動を描くオペラですが、今回も、主演の金子美香さんの『歌うコメディエンヌ』ぶりが、黒幕として動くクールな小川里美さんとの対照の妙で凸凹コンビの面白さを大いに発揮してくれるでしょう。また、初参加の吉原圭子さんにはハンサムな男にひたすら憧れる娘心を追求してもらいたいですね」
登場人物としては唯一の男性である与那城敬については。
「与那城君には『生真面目な取り組みが余計に可笑しさを誘う』彼の真骨頂をあらためて発揮して欲しいです! 前回、彼の“熱演ぶり”がそれこそ毎回爆笑を招くので、リハーサルがなかなか進まなかったんです(笑)。今回も、皆さまに思い切り笑って頂けるよう、さらに工夫を凝らします!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)
みろくのみりょくシリーズ オペラ宅配便シリーズⅩⅢ
メノッティ:《泥棒とオールドミス》
9/28(日)16:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
http://www.yokosuka-arts.or.jp