マルティン・ヘルムヒェン(ピアノ)

得意のドイツ・ロマン派プロで魅せる深化とピアニズム

(c)Giorgia Bertazzi

 ヘルムヒェンのピアノは、聴き手の懐にすっと入ってくる。柔らかで丸みを帯びたタッチながら、出てくる音楽の大きなこと。軽やかな運びのなかに、一本芯が通った主張も感じさせる。柔軟な姿勢から生まれるたくましさ。武道の達人を思わせるピアニズムだ。

 トッパンホールでのデビューになる2008年の公演は、バッハ(パルティータ第6番)、メシアン(「幼な子イエス」から3曲)、シューベルト(ソナタ第20番)にリスト(スペイン狂詩曲)を取り上げた。意欲にあふれ、ともすれば重厚になりがちなこのプログラムを彼はじつにしなやかな手つきで弾き切った。

 11年にはベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア・ソナタ」をメインに。15年は、勢いで押し気味になりやすい「ディアベッリ変奏曲」を、推進力を保ちつつ、持ち前の柔軟に組み立てられた構成力で一つの大作としてまとめてみせた。すがすがしいベートーヴェンだった。

 そのピアニストが、7年ぶりにトッパンホールへ帰ってくる。ドイツの貴公子と呼ばれた彼も今年で40歳。今回はドイツ・ロマン派の王道的な選曲で挑む。バッハのパルティータ第6番で始まり、シューマンの「8つのノヴェレッテ」からの3曲と「暁の歌」。最後にブラームスのソナタ第3番。

 とりわけブラームスの青春の集大成たるソナタが楽しみだ。響きをやさしく重ね、情熱的に高潮しつつも、作曲家が念入りに仕込んだ構成美を爽やかに音にしてくれるのではないだろうか。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2022年12月号より)

2022.12/16(金)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 
https://www.toppanhall.com