小峰航一(ヴィオラ)

ヴィオラの可能性を追求したヒンデミットへのリスペクトを込めて

(c)Akihito Mori

 京都市交響楽団首席奏者、紀尾井ホール室内管弦楽団等で活躍するヴィオラの小峰航一が、パウル・ヒンデミットの無伴奏ソナタ4曲を収めた2作目のアルバム『ダイアローグ』をリリースした。ヴィオラ奏者、作曲家、指揮者、研究者、教育家等々、完全なる音楽家ヒンデミットの作品は、ヴィオリストにとって不可欠なレパートリー。録音セッションは、1日10時間で3日間とハードだったが、小峰は「ヒンデミットからレッスンを受けているような感覚になった」と振り返る。結果、研ぎ澄まされた技巧と集中力で作品の本質へと迫る演奏となった。

 「ヒンデミットの作品に最初に取り組んだのは、op.25-1(1922)。高校1年生のときです。ブルーノ・パスキエ先生のマスタークラスに勇気を出してもっていくと、パスキエ先生の同僚教授がヒンデミットと親しかったそうで、作曲家直伝のボウイングやフィンガリングを取り入れて全曲弾いて下さり、こんなにすごい曲なんだ!と驚きました」

 その一方で、ほろ苦い思い出も。

 「次に弾いたのはop.11(1919)。挫折の嵐でした。難しい曲で難攻不落。終楽章のパッサカリアは取り組みやすいけど、シンプルな第1楽章やキャラクターの明確な第3楽章は高校生には難しかったです」

 いま最も力を入れているのは、難曲 op.31-4(1923)。「すべてが魅力的で、私はこの作品にバッハを感じます。大好きなのが第2楽章 Lied(歌)。『少し表現して』という指示が皮肉っぽくて、歌なのにと思いますが、語りかけるものだと解釈しています。終楽章は超絶技巧の変奏曲です」。最近レパートリーとなった1937年の作品は「列車での移動中に書かれたそうですよ。音は非常に難しいのですが、シンプルで修行僧のような世界に入っています」。

 録音では全集版の楽譜を用い、そこで示された音の変更等も精査して演奏に取り入れた。詳細な曲目解説も自ら執筆し、「ヒンデミット再評価」を熱望する。12月に京都で行うCD発売記念演奏会は、ヒンデミットに加え、小峰の現在がぎゅっと詰まった選曲が目を引く。題して「カルト・ブランシュ」、フランス語で「やりたい放題」。なので…。

 「ヒンデミットの無伴奏ソナタ2曲のほか、おふざけも大好きなヒンデミットの一面を知ってほしくて、関西弦楽四重奏団の仲間とワーグナーの《さまよえるオランダ人》序曲を編曲した愉しい曲も演奏します。レーガーの無伴奏組曲は、ヴィオラの歴史上初めて書かれた無伴奏曲、ベートーヴェンの『大フーガ』はバッハ以降に書かれた最も偉大な対位法の作品。グールドにフーガの大家と言わしめたヒンデミットを意識しての選曲です」

 この内容の濃さはヴィオラ奏者ならでは!? ぜひホールで小峰流「やりたい放題」を体験していただきたい。
取材・文:柴辻純子
(ぶらあぼ2022年12月号より)

Carte Blanche!小峰航一(ヴィオラ) CD発売記念
2022.12/7(水)19:00 京都市北文化会館
問:KCMチケットサービス 0570-00-8255
https://www.kojimacm.com

CD『ダイアローグ ヒンデミット:無伴奏ヴィオラ・ソナタ集』
レック・ラボ(録音研究室)
NIKU-9047
¥3080(税込)