現役トップ級の名手が、1年の長期休暇後に迎えたコロナ禍にあえて録音した、音楽を奏でる喜びに溢れた一枚。持ち前の冴えた技巧は不変どころか、むしろ凄みを増した感。ドヴォルザークの協奏曲はいつになく濃密かつ情熱的で、バック(全体に好演)と一体になりながら、この曲が第一級の名作であることを知らしめる。ヒナステラの協奏曲も燃焼度が高く迫真的。「カルメン幻想曲」は技巧面や民族色を超えた純音楽的表現で魅了する。「エクリプス=日食」は暗闇の後の光明を示唆したタイトルのようだが、まさしくそうした思いに導かれる、傾聴すべきアルバム。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年12月号より)
【information】
CD『エクリプス/ヒラリー・ハーン』
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調/ヒナステラ:ヴァイオリン協奏曲 op.30/サラサーテ:カルメン幻想曲
ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
アンドレス・オロスコ=エストラーダ(指揮)
フランクフルト放送交響楽団
収録:2021年6月、フランクフルト(ライブ) 他
ユニバーサルミュージック
UCCG-45062 ¥3080(税込)