ジュネーヴ国際コンクール覇者、祈りと超絶技巧の無伴奏
2021年ジュネーヴ国際音楽コンクール チェロ部門で日本人初の第1位に輝くなど、数々の受賞歴を持つチェリスト上野通明が「B→C(バッハからコンテンポラリーへ)」シリーズに登場する。本公演時に27歳という若さだが、10代から国際的に注目され、秀演を重ねている。今回はすべて無伴奏。平和への祈りを込めて、独りで弾き続ける深みのあるプログラムとなっている。
「パンデミックや戦争の悪いニュースが続く中、悲しみに暮れる人々に捧げる曲を選びました。悲惨なことが起きると人は人智を超えたものに助けを求めます。神や宗教を題材にした曲を多く見つけました」
1曲目は英国の作曲家ジョン・タヴナーの「トリノス」。ビートルズとの交流でも知られたタヴナーはギリシャ正教徒で神秘主義者。
「チェリストのスティーヴン・イッサーリスのために1990年に書かれた曲。彼がロックダウン中に追悼の演奏動画をアップロードし、それを見て僕もぜひこの曲でコンサートを始めたいと思いました」
前衛に与せず、美しい旋律を持つ「トリノス」でまず、現代音楽の固定観念から聴き手を解き放つ。
対照的なのは、前衛の極みといえるクセナキスの「コットス」。上野がジュネーヴ国際で特殊奏法を印象付けた曲だ。
「コットスはギリシャ神話の怪物の名前です。コントラストのあるプログラムになりました」
清澄な祈りと炸裂する技巧。奇才ぶりが発揮される。
「B→C」に欠かせないバッハ作品からは、無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調 BWV1012。
「僕がチェロを始めたのは、ヨーヨー・マのDVD『インスパイアド・バイ・バッハ』に感動したからです。彼はサラエボ五輪金メダルのトービル&ディーン組によるアイスダンスと共演し、第6番を弾いていました。『いいな。僕も弾きたい』と親にお願いしました」
第6番で自身の原点を示す。
上野が委嘱した森円花の「不死鳥 ── 独奏チェロのための」は世界初演となる。
「森さんは桐朋学園大学の先輩で、人間味のある曲を書く人です。コロナ禍の中でも音楽は終わらないという意味で『不死鳥』を書いたそうです。新しい奏法があり、アートとのコラボレーションも考えています」
ブリテンの無伴奏チェロ組曲第3番 op.87はロストロポーヴィチの演奏に感銘を受けて作曲された。
「ロシア正教会の聖歌が出てきます。僕は教会音楽や心洗われる曲が好きです。チェロ1本の公演を楽しみにしています」
今年25年目の「B→C」。247回目は無伴奏チェロが伝説になる。
取材・文:池上輝彦
(ぶらあぼ2022年11月号より)
東京オペラシティ B→C(ビートゥーシー) 上野通明(チェロ)
2022.12/20(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
10/21(金)発売
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp