エクス・ノーヴォ vol.16 カヴァリエーリ《魂と肉体の劇》

400年以上の時を経て蘇るイタリア舞台芸術の原点

 ステージで芝居を演じるパフォーマーが見事な語り口で発するセリフが、あまりに美しく歌にもなっていた……そう伝えられる古代の演劇を、自分たちでも実現してみようとした16世紀末のイタリア人たち。そこで生まれた総合芸術こそ、西洋音楽の演奏表現の重要なルーツである声楽分野=オペラの原点だ。その生まれたての姿を、コンサートホールという近代発祥の設備ではなく、本来の姿通り演劇向けのステージで体感できる機会が11月に実現する。

 イタリア最前線の古楽シーンで研鑚を重ねた福島康晴率いる精鋭集団エクス・ノーヴォが、ミラノに拠点を置く演出家の井田邦明を迎え両国のシアターXで披露するのは、1600年に諸芸術の坩堝ローマで披露された傑作《魂と肉体の劇》。あまりの才能にカッチーニやペーリら同僚の嫉妬を買い、オペラ揺籃の地フィレンツェを追われた天才作曲家カヴァリエーリが生涯最後に残した伝説的重要作だ。いずれ劣らぬ名録音の数々で知る人も多いとはいえ、本質が伝わる「生」の上演はきわめて稀少(若杉弘指揮で東京室内歌劇場が取り上げた2000年以来の快挙ではないか)。本場イタリアや古楽の都バーゼルで揉まれてきた俊才続々の演奏陣が、演劇に特化した空間で古楽解釈の粋を尽くし、欧州舞台の人・井田の演出で生々しく蘇らせる「生まれたての音楽劇」の素顔。古代に憧れたバロック初期のイタリア人芸術家たちの思い描いたステージの理想を「今、ここ」に現出させうる日本の音楽シーン成熟に、輝かしい未来への希望も感じられそうだ。
文:白沢達生
(ぶらあぼ2022年10月号より)

2022.11/5(土)13:30 19:00、11/6(日)14:00 シアターX(カイ)
問:ムジカキアラ03-6431-8186 
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