いつ果てるとも知れず続く暗闇。目を凝らしてみると、闇の底で何かがうごめいている。その蠢動は少しずつ膨らみ、どんどん巨大化していって、最後には物凄いエネルギーを噴き上げる——粘着的な情念の爆発こそ、松村禎三が一貫して表現したドラマトゥルギーだ。強迫観念のように同じ音を叩き続けるピアノ協奏曲第1番。妖しい旋律線が互いを欺きあうように動き緊張感を高めていく「ゲッセマネの夜に」。幾重にも積みあがった音の地層の上で金管が激しく吠える交響曲第1番。野平一郎とオーケストラ・ニッポニカの演奏は、代表作ともいうべき三作から、松村の思考と体臭を鮮やかに浮かび上がらせた。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年10月号より)
【information】
CD『松村禎三交響作品集/野平一郎&渡邉康雄&オーケストラ・ニッポニカ』
松村禎三:ピアノ協奏曲第1番、ゲッセマネの夜に、交響曲第1番
野平一郎(指揮)
渡邉康雄(ピアノ)
オーケストラ・ニッポニカ
妙音舎
MYCL-00030 ¥3300(税込)