【CD】Bのバガテル 高橋悠治 ピアノ・リサイタル

 80代半ばのピアニストならリサイタルを弾き通すだけでも大変なはず、という大方の予想を裏切り、高橋悠治は脱力によって老練な新境地を切り開いている。その姿勢が、イニシャルBの短いバガテル(小品)を集めた本作にも表れた。晩年のベートーヴェンの可憐さや華やかさの中にばっくりと開いた虚無、フィリピンのバエスの民族音楽と西洋音楽のキメラへの現代的な介入、若きバルトークの伝統とモダンとエスニシティーの混然一体としたアマルガム。アンコールはC(クープラン)に進みバガテルの根源に迫った。瑞々しい演奏に導かれ、聴き手は時間と空間をダイナミックに旅していく。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年10月号より)

【information】
CD『Bのバガテル 高橋悠治 ピアノ・リサイタル』

ベートーヴェン:6つのバガテル op.126/バエス:5つのバガテル/バルトーク:14のバガテル op.6/クープラン:バガテル

高橋悠治(ピアノ)

収録:2022年3月、浜離宮朝日ホール(ライブ)
マイスター・ミュージック
MM-4509 ¥3300(税込)