池辺晋一郎 プロデュース 日本の現代音楽、創作の軌跡 第4回「1932年生まれの作曲家たち」

多様性際立つ時代の空気に耳をすます

 昭和一桁生まれは宿命を背負った世代だ。物心ついた頃は日中戦争、思春期にかけては太平洋戦争で国に命を捧げるよう刷り込まれ、実際、彼らの身近で多くの人が亡くなった。終戦で世界観が百八十度変わる。焼野原からの再出発。物質的にも精神的にもダメージを受けた上の世代に代わり、若い彼らのエネルギーが復興を導いた。

 池辺晋一郎のプロデュースによる「日本の現代音楽、創作の軌跡」は、1929〜33年生まれの作曲家たちにスポットを当てたユニークな企画で、死生観や価値観の大変動を創作のエネルギーへと変えていったこの世代の創造を、俯瞰的に振り返る。第4回は1932年(昭和7年)生まれを特集する。

 フランスに学んだ後、最先端の技術や研究成果を取り入れた端山貢明(ピアノ・ソナタ)や丹波明(クインクエ)の、凄まじいエネルギーをまき散らす音楽に挟まれるのは、素朴な歌心に満ちた福島雄次郎(詩曲)、メロディーに加えその人柄でも大衆の心をつかんだ山本直純(いとしのブラックマリー)、小林亜星(タンゴ・ハポネス)らの多彩な創作。安倍圭子の伝説的なマリンバ・リサイタルで初演された湯山昭のサクソフォンとのデュオ曲(ディヴェルティメント)など、日頃耳にする機会が少ない重要作も並ぶ。様々なタイプ・編成からチョイス、演奏には、中川賢一(ピアノ)、尾池亜美(ヴァイオリン)、平野公崇(サクソフォン)、塚越慎子(マリンバ)ら今後を担う若手・中堅を贅沢に配したあたりに、池辺の先達への敬愛と未来への責務が感じられる。

 戦争を知る人は減ったが、先行きは不透明になりつつある。平和のもたらす文化の豊かさを噛みしめる機会にもなるのではないか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年10月号より)

2022.10/7(金)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp