浜離宮朝日ホール 開館30周年記念 シギスヴァルト・クイケン(ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ/ヴァイオリン) 無伴奏リサイタル

名匠が明かす歴史的傑作の真の姿

 シギスヴァルト・クイケンと言えば、今は亡きレオンハルトやブリュッヘンと並び1960年代から古楽演奏に携わってきた古楽パイオニア世代の一人である。その彼は近年、「新しい古楽器」とも言うべきヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの演奏でバッハにアプローチしており、今回は無伴奏チェロ組曲第1番と第3番を披露する。

 実はバッハのチェロ組曲には、チェロでは演奏困難や演奏不可能な音符があるのをご存知だろうか? バッハ自身の自筆楽譜も存在しないことから「果たして本当にチェロのための作品なのか?」という疑問が提起され、当時の楽器の研究の結果、復元されたのがこの楽器なのである。

 ヴィオラを一回り大きくして肩(イタリア語でスパッラ)から吊るして、ギターのように構えて弾く弦楽器。本公演では4弦楽器で演奏される。見た目は少々奇異かもしれないが、その音色は驚くほど豊かな低音が鳴り、魅了される。ともすれば「重厚」なイメージが強かったバッハの組曲が、軽やかな舞曲本来の性格で羽ばたく面白さ…名手クイケンの演奏は、そんな発見に満ちているはず。さらに彼は、ヴァイオリンによって無伴奏パルティータ第2番も演奏する。

 およそ無伴奏作品ほど楽器と演奏者のすべてがさらけ出されるジャンルはない。しかもバッハとなればなおさらだ。今回のコンサートは音楽にとどまらず、古楽界の雄となっても新しいアプローチでバッハの世界を追求しつづけるクイケンの人間像までも実感できる空間になるだろう。
文:朝岡聡
(ぶらあぼ2022年9月号より)

2022.10/7(金)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/