元ベルリン・フィルの名コンサートマスター安永徹と市野あゆみによる2001年のブラームス公演が、NHK収録音源でCD化された。なんという呼吸の深さ。一音ずつ味わい尽くすようなテンポだが弛緩とは無縁。温かくも濃密な歌は途切れることがなく、すべてが深遠に響く。特筆すべきはピアノで、広大な流れ、重要な動きの克明かつ深い歌い込み、和音ごとの色彩変化…どこを聴いても唸らされるばかり。“ドイツのブラームス”の何たるかを知る思いで、泰然たる第1番(30分)、第2番(24分)には畏怖の念すら覚える。この演奏が日常にあった21世紀初頭から20年余、私たちが得たもの、失ったものとは。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年9月号より)
【information】
CD『ブラームス:ピアノとヴァイオリンのための ソナタ全3曲 他/安永徹&市野あゆみ』
ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番〜第3番/ドヴォルザーク:「4つのロマンティックな小品 op.75」より/C.シューマン:「3つのロマンス op.22」より/クライスラー:愛の哀しみ
安永徹(ヴァイオリン)
市野あゆみ(ピアノ)
収録:2001年7月、紀尾井ホール(ライブ)
ナミ・レコード
WWCC-7969-70(2枚組) ¥3300(税込)