波多野睦美 歌曲の変容シリーズ 第15回 想いの届く日ふたたび 〜氷と熱の楽器 バンドネオンと共に〜

互いに呼応し合う声と楽器の息づかい

 バロック・オペラにおける第一人者として名高いメゾソプラノの波多野睦美は、また、現代作曲家の作品にも積極的に取り組むなど、意外にボーダーレスの歌手だ。そんな波多野がプロデュースする王子ホールの「歌曲の変容シリーズ」は、様々な楽器との共演によって時代を超えた歌曲の多様なすがたを紹介するシリーズ。第15回となる今回ゲストに迎えるのは、バンドネオンの北村聡とコントラバスの田辺和弘だ。実は波多野は北村と録音したアルバムのリリースを7月に控えており、このコンサートはそのお披露目的な役割もあるようだ。

 北村といえば、クラシックのみならずテレビや映画音楽の録音にも参加するなど、「今」を代表するアーティストのひとり。また田辺はタンゴにおけるコントラバス奏者の第一人者である。コンサートは、タンゴの名曲であるガルデルの「想いの届く日」を副題に据え、ピアソラ、グアスタビーノ、ラミレスなどの南米の作曲家の作品、バルバラのシャンソンなどを、北村が自由なインスピレーションで行ったオリジナル編曲によって披露するとのこと。波多野はコロナ禍の2年間を経て「同じ場所に居て、同じ香りをかぐ、そんな何気ないことの価値に気づいた」と語っている。心の琴線に直に触れてくるような雄弁なバンドネオンと柔らかい情熱を支えるコントラバス。それらの楽器の音色と波多野が歌に込めた「想い」が出会う時、音楽はどのように「変容」していくのか、非常に楽しみだ。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2022年7月号より)

2022.7/22(金)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990 
https://www.ojihall.jp