日本フィルなどのコンサートマスターで大活躍の田野倉雅秋のブラームス全ソナタ・ライブ録音。第1番の冒頭から清潔で美しい音に魅了される。のびやかな音で優しい表情。ピアノの渡邉康雄も繊細な造りがとてもきれい。ブラームスらしい入念な展開部も聴き応えがある。第2番第1楽章での二人の激しいせめぎ合いとデリケートなニュアンスのバランスの良さも聴きものだ。第2楽章では、緩徐な歌とスケルツォの躍動の対比づけが絶妙で、それぞれの性格を際立たせる。第3番はそこここに現れる内省的な表情が印象的で、厳しい造形から作曲家晩年の心模様が浮き彫りにされる。見事なブラームスだ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2022年7月号より)
【information】
CD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全3曲とスケルツォ/田野倉雅秋&渡邉康雄』
ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番~第3番、スケルツォ ハ短調
田野倉雅秋(ヴァイオリン)
渡邉康雄(ピアノ)
収録:2021年2月、東京文化会館(小)(ライブ)
ナミ・レコード
WWCC-7965 ¥2750(税込)