シリーズ「新しい視点」 ダブルポートレイト・フォー・マリンバ・アンド・ザ・フューチャー

横浜で体感するマリンバ音楽の最前線

 最近、横浜から音楽の新しい風が吹いている。前川國男による戦後モダニズム建築の名作として知られる神奈川県立音楽堂が、この7月、これまでにない攻めた企画「シリーズ〈新しい視点〉」を始動させる。中核となるのは2本の柱で、まず3人の企画委員が公募企画から選定した「紅葉坂プロジェクト」(7/2)。もうひとつが、「ダブルポートレイト・フォー・マリンバ・アンド・ザ・フューチャー」(7/10)。こちらはマリンバが主役となったユニークな演奏会プロジェクトだ。この楽器のための名作を生み出してきた一柳慧、そして今世界でもっとも重要なマリンバ音楽の作曲家アレハンドロ・ヴィニャオを特集する。両作曲家によるトークも行われるほか、マリンバ奏者の小森邦彦、橋本岳人(フルート)、ブルックス信雄トーン(クラリネット)、岡本麻子(ピアノ)らが演奏を担当する。一柳の「共存の宇宙」「風の軌跡」といった名作に加えて、エレクトロニクス音楽も得意とするヴィニャオのフルートとクラリネットと打楽器、エレクトロニクスのための「ファイナル デ フレーズ」の世界初演もあるなど、マリンバ音楽の“今”を堪能できる絶好の機会となっている。

 今回のプログラミングについて、「打楽器でありながら、打楽器のためだけではない、この20年の創作の成果をご紹介します。エレクトロニクスの入ったものそうでないものなど、できるだけ色々なタイプの音楽を取り上げます」(ヴィニャオ)。

 共演する小森は、一柳、ヴィニャオについてこう語る。

 「打楽器に異なる楽器を組み合わせる室内楽編成によって、色彩や音圧でその魅力や効果が増幅します。今回のヴィニャオの来日公演では、私がこれまで彼に委嘱した作品も取り上げますが、聴きながら足踏みしたくなるような魅力あふれる曲ばかりです」  

 世界をリードする2人の作曲家のトークにも期待だ。「私たちの音楽への理解に役立ててほしい」(ヴィニャオ)。「日本と西洋ではマリンバの演奏文化は異なるように感じますが、作曲家に直接様々な好奇心を投げかけて確認できる、贅沢な機会になります」(小森)。ヴィニャオ自身も訪日を楽しみにしているという。「3週間の滞在で、プロの音楽家、そして学生たちと交流できますので、有意義な日々になると思います」。7月は、海辺をのぞむ横浜の風景が美しい輝きを放つ季節だが、「ダブルポートレイト・フォー・マリンバ・アンド・ザ・フューチャー」は、屈指の名建築ホールでのスリリングな「新しい風」を体感させてくれるにちがいない。
文:伊藤制子
(ぶらあぼ2022年6月号より)

2022.7/10(日)15:00 神奈川県立音楽堂
問:チケットかながわ0570-015-415 
https://www.kanagawa-ongakudo.com

他公演
アレハンドロ・ヴィニャオ ポートレイト・フォー・パーカッション
2022.7/14(木) 名古屋市熱田文化小劇場(ミューズクリエート052-910-6700)
7/20(水) サントリーホール ブルーローズ(小)(ミリオンコンサート協会03-3501-5638)