上岡敏之(指揮) 読売日本交響楽団

刺激的な20世紀ウィーンの音楽世界、森谷真理の鬼気迫る歌唱も

 刺激的なプログラムである。5月の読売日本交響楽団、ドイツ在住の上岡敏之は得意のドイツもののなかでも、前半は新ウィーン楽派の無調音楽で揃えてきた。

 まずウェーベルンの「6つの小品」は、無調で書かれたオーケストラによる箴言のような作品だ。今回演奏される1928年版は師のシェーンベルクに捧げられたもので、上岡のタクトで、その簡潔な美しさに気づかされるはずだ。

 続いて、同じくシェーンベルクの弟子、ベルクによる20世紀オペラの傑作《ヴォツェック》から「3つの断章」。全曲の上演前、ベルク自身がソプラノと管弦楽のために3場面を抜粋したもので、無調音楽の精緻な構成に乗せて歌われる、美しくも鬼気迫る旋律と響きが格別だ。

 注目はなんといっても国際的に活躍する森谷真理。軽いコロラトゥーラの役から蝶々夫人やサロメまでをハイレベルに歌いこなす超人のようなソプラノで、今年5月の前半にもドレスデン州立歌劇場で蝶々夫人を歌う。森谷はすでに同じベルクの《ルル》で、高音もコロラトゥーラも声量も圧倒的なスケールのルルを披露しており、《ヴォツェック》でも人間心理の闇に深く迫るに違いない。

 そして後半は、シェーンベルクの弟子ではなく師であるツェムリンスキーの交響詩「人魚姫」が取り上げられるのがおもしろい。無調と伝統的書法の間で迷いながら描かれた人魚姫の葛藤が、大編成のオーケストラを変幻自在に操舵する上岡のタクトを通じて、熱く浮かび上がるだろう。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2022年5月号より)

第617回 定期演奏会 
2022.5/24(火)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390 
https://yomikyo.or.jp