バリー・ダグラス(ピアノ)

コンクール制覇から36年、熟成し深みが増すピアニズム

(c)Benjamin Ealovega

 1986年のチャイコフスキー国際コンクールで優勝に輝いた北アイルランド出身のピアニスト、バリー・ダグラスが7年ぶりに東京でリサイタルを行う。プログラムは「いま」のダグラスを表す多彩な内容。その真意は?

 「今回の選曲はこの2年間温めてきたセレクションです。シューベルトの即興曲第1番、プロコフィエフのバレエ『ロメオとジュリエット』からの10の小品、チャイコフスキーの『四季』、ムソルグスキーの『展覧会の絵』は非常にピアニスティックで叙情的であり、また刺激的な面もあります。プロコフィエフに関しては強烈な思い出があり、11歳のときにベルファストでピアノ協奏曲 第3番を初めて聴いたのですが、そのときは北アイルランド紛争の真っただ中で、爆撃の脅威により演奏が3度も中断されました。以来、私はプロコフィエフに強く魅了されているのです」

 「展覧会の絵」は、1987年に東京で初めて演奏した思い出の曲である。
「この作品はピアノ音楽ではなく、オーケストラの多くの楽器による演奏のように聞こえるべきです」

 さらに、ベートーヴェンの人気の高いピアノ・ソナタ第23番「熱情」も演奏される。
「ベートーヴェンのソナタは幼いころ初めて耳にし、全曲勉強することを目標にしました。32曲をツィクルスで演奏していますが、特に『熱情』はドラマ性と強靭さが気に入っています」

 ダグラスは1999年、北アイルランドとアイルランド共和国出身の演奏家で構成される「カメラータ・アイルランド」を結成し、芸術監督を務めている。

 「2024年には創立25周年を迎えるんですよ。これは私の非常に大切な活動のひとつで、英国女王とアイルランド大統領が共同の後援者となっています。とても活気に満ちたエキサイティングな音楽活動を展開しています」

 バリー・ダグラスはチャイコフスキー・コンクールの覇者となった当初、その甘いマスクとエネルギッシュな演奏で日本のファンをとりこにした。現在は渋さが加わり、俳優のような風貌に変容。演奏も熟成し、表現力が深い。

 「私にとっては聴衆が感動してくれることが一番です。演奏するたびに常に新たな方法を見つけるよう努力していますが、聴衆がそれを受け取り、演奏に感謝してくれていると感じたときは、音楽家として最高の気分を味わうことができます。私は旅が好きで、久しぶりに日本を訪れることができるのは無上の喜びです。コロナ禍で大変な時期ですが、音楽から前に進む力を受け取ってもらえたら幸せです」 
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2022年4月号より)

バリー・ダグラス ピアノ・リサイタル
2022.5/11(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:アスペン03-5467-0081 
https://www.aspen.jp