ソヒエフがトゥールーズ・キャピトル管とボリショイ劇場の音楽監督辞任

「わたしたち音楽家は平和の使者」

 指揮者のトゥガン・ソヒエフが、3月6日、自身のFacebookでトゥールーズ・キャピトル管弦楽団(Orchestre National Capitole Toulouse)とボリショイ劇場(Bolshoi Theatre)の音楽監督を辞任すると発表した。

Tugan Sokhiev © Mat Hennek

 ソヒエフは、ワレリー・ゲルギエフとルーツを同じくする北オセチアのウラジカフカス出身。ロシアのウクライナ侵攻についてトゥールーズ市当局から何らかの声明を出すように要請されていた。長いコメントには苦悩が滲む。ロシアの音楽家とフランスの音楽家のどちらかを選ぶという「不可能な選択を迫られた」ことが両方のポストからの辞任という結論を導いたと述べている。

 「私はこれまで一度も紛争を支持したことはないし、いかなる形の紛争にも反対だ」としたうえで、トゥールーズでもボリショイ劇場でも、定期的にウクライナの歌手や指揮者を招聘してきたことに触れ、「国籍のことなど考えたこともなかった」という。
 ロシア音楽の演奏が取りやめられたり、ロシアのアーティストたちがさまざまなイベントから排斥されている現状に対しては、「チャイコフスキー、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチとベートーヴェン、ブラームス、ドビュッシーのどちらかを選ぶよう、私は迫られるだろう」「キャンセル文化 cancel culture の犠牲になっているのを目の当たりにするのは耐えられない」と分断を憂いた。

©Patrice Nin

「私たち音楽家は、偉大な作曲家を演奏・解釈することによって、人類がお互いに思いやりと尊敬の念を持ち続けるための特別なチャンスと使命を与えられているのです。私たち音楽家は、ショスタコーヴィチの音楽を通して、戦争の悲惨さを思い起こさせるために存在している。私たち音楽家は平和の使者なのです。私たちや私たちの音楽が国や人々を結びつけるために使われるのではなく、私たちは分裂、排斥されているのです」

 2005年から長きにわたり関係を築いてきたトゥールーズ・キャピトル管との契約は今年6月までだったが、任期満了を目前にしての辞任となった。

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