小松亮太(バンドネオン)

《ブエノスアイレスのマリア》を親しめる作品に高めたい

 昨年、満場の聴衆を熱狂の渦に巻き込んだピアソラの最高傑作が再び蘇る! タンゴの表現領域を切り拓き続けるバンドネオン奏者、小松亮太と13人の仲間によるタンゴ・オペリータ《ブエノスアイレスのマリア》が7月に上演される。テキストは、アルゼンチンの代表的詩人、オラシオ・フェレールの作。タンゴを擬人化した存在である“マリア”の生と死、そして再生を描いた2部構成の物語は、力強い詩と熱を帯びた音楽により、ピアソラ作品の金字塔として知られている。
「この作品は当初、2011年3月に上演予定でしたが、東日本大震災の発生で中止になってしまって。その後、2年の時を経て昨年の上演に漕ぎ着けた時は、共演者、関係者、そしてファンの皆さんへの感謝の気持ちで一杯になりました」
 今回は板橋と中野で2公演。中野のチケットはすでに完売していることからも、人気と注目度の高さがうかがえるだろう。
「昨年の公演を終えて実感したことがあります。それは、この作品はとにかく難しい!(笑) テキストがシュールで難解なこともあり、一度聴いたり、弾いたりしただけで全貌を知るのは不可能といえるでしょう。だから、年末の『第九』のように、聴き手も弾き手も親しめる作品に高めたくて、今回の再演を決意したのです」
 昨年の公演では、本作の初演を務めたピアソラの元パートナー、アメリータ・バルタール(ヴォーカル)ら、本場の歌声や語りが圧倒的な存在感を放っていた。その点、今回は器楽パートに前回と同じTokyo Tango Dectetの名手たちが再集結するものの、ヴォーカルとナレーターは一新。全員日本人で、テキストも日本語(前回はスペイン語を日本語字幕で表示)なのが注目だ。
「ナレーターは俳優の片岡正二郎さん。ヴァイオリンやマンドリンなども操る多才な方なので、表情豊かな語り口にご期待ください。ヴォーカルのSayacaさんとKaZZma君は、ともにアルゼンチンで学んだ経験があり、特にSayacaさんはアメリータさんにも師事しているのですよ。どちらも本格派なので安心です。日本語テキストは練習中に少し試したことがあるのですが、とてもしっくりくる訳だったので、今後のこの作品の普及のことも視野にいれて採用しました」
 音楽作品は、複数の弾き手や歌い手によって繰り返し演奏され、磨かれる中で、“古典”へと昇華していく。《ブエノスアイレスのマリア》がその階段を昇る記念すべき第一歩を、聴き逃さずにはいられない!
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年7月号から)

ピアソラ:《ブエノスアイレスのマリア》(タンゴ・オペリータ/コンサート形式)
7/15(火)19:00 板橋区立文化会館
7/18(金)19:00 なかのZERO(小)(完売)
問:コンサートイマジン03-3235-3777 
http://www.concert.co.jp