“北欧の感性”で挑むマーラーの大作
フィンランド出身の若手指揮者ピエタリ・インキネン。ニュージーランド響の音楽監督を務めると同時に、オペラ上演でも国際的な躍進を続けており、ドラマティックな筋書きを端正にまとめ上げる腕には定評がある。2009年の日本フィル首席客演指揮者の就任直後から、両者はマーラー撰集と題して交響曲第3番のような大作も含む交響曲群にチャレンジし、第1番「巨人」及び第5番はその成果としてCDリリースもされている。
来る6月の定期で取り上げる交響曲第6番「悲劇的」はそれらに続くもの。実は本来2011年4月に行われるはずだったが、東日本大震災によって流れてしまった演目だ。昨年集中して上演したシベリウス交響曲シリーズも、ナクソスからのCDリリースと並行して大きな評判を呼んでいるが、この間、両者はより絆を強め、満を持してのこのコンサートになったといえよう。いったん流れた演目を3年の月日を経て取り上げる点にも、思い入れがうかがえる。
巨大かつ複雑な「悲劇的」は、オーケストラにとっても指揮者にとっても体力がいるだけではなく、ドラマティックな場面展開や魂をえぐる感情表現を要する点でタフなチャレンジだ。来年からは正指揮者・山田和樹が武満作品と組み合わせた形でマーラー連続上演を行うので、日フィルの今を彩る二人の若手“旬”指揮者の個性を比較しつつ味わうという点でも興味深い。両者ともに抜群の耳をもつが、インキネンの音楽にはいかにも北欧出身らしい透明な空気感がある。「悲劇的」のもつドラマ性が、この空気感を通じてどんなふうに浮かび上がるだろうか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2014年6月号から)
第661回 東京定期演奏会
★6月27日(金)、28日(土)・サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp