感謝の気持ちを“100パーセント以上”お返ししたい
名匠レナード・スラットキンが音楽監督に就任して以来、初の来日となるフランス国立リヨン管弦楽団。そして、2005年から音楽監督を務めている知将ケント・ナガノに率いられ、熱いラブコールに応えて再来日を果たすモントリオール交響楽団。相次いでやって来る2つの名門オーケストラと共演するのが、いま最も注目されている若手ヴァイオリニストの1人で、しなやかな感性が輝く五嶋龍。
楽曲への取り組み方について「まずは自分ががむしゃらに追求した後、時間をおいてから、皆さまへ捧げるといった感じ。常に変化していきます」と説明する五嶋。7月の国立リヨン管弦楽団公演で披露するのは、ラロの「スペイン交響曲」。
「多くの点で難しく、大好きな曲。この曲も、これから僕の中で変化していくと思う」
スラットキンの印象を尋ねると「学ぶところが多い方で、それだけに期待しているし、これを機会にさまざまなことを吸収したい」と強調する。
10月には、「フランスの楽団よりも、フランス的」と称されるモントリオール交響楽団のステージに出演。立て続けの名門楽団との共演となる。
「聴きに来て下さる方々がおられるからこそ、実現すること。聴衆の皆さまあっての僕。その感謝の気持ちを“100パーセント以上”お返しする意味でも、納得のいく演奏を目指します」
ケント・ナガノについては「雲の上の人ですから…。ただ、共演できることは、とても有り難いです」とコメント。
ナガノ&モントリオール響とはストラヴィンスキーの協奏曲に挑戦する。
「すごく生意気で、傲慢な言い方だと言われるのは承知で…」と前置きしてから、「マエストロの許して下さる限りの、“僕のストラヴィンスキー”を弾きたい。そのためには、作曲家の意思をどのように理解し、すくい取るか、がポイントになるでしょうね」
「神童」として話題になった五嶋。かつては巧みさの一方、どこか“危うさ”があったが、今の彼は自身の内面をまっすぐに反映させた演奏で、そんなことを微塵も感じさせない。いつ、どのように変化を遂げたのか。
「毎日育っています(笑)。子どもの頃は純粋で、まずは『言われたことが第一』でした。でも、今は『僕の弾きたい思いが第一』。そんな変化のきっかけは、毎日あったように思えます」
演奏活動に加え、空手でも実績を挙げ、大学では物理を専攻、そしてビジネスにも挑戦している。
「意識的でなくても、多面的なことを知る。『もっと知りたい』という思い。その一つひとつが解明される楽しさ。これは音楽のみに集中する人(仮にそんな人がいれば)にも共通します。でも、そのプロセスはそれぞれ違う。プロセスの数は、人間の数だけある。僕の場合、興味の広がりとこの道理が偶然一致していたのだと思います」
「どんなに辛い事も、前に進むための糧になる。夢をひとつもギブアップする必要はない。意志さえあれば、方法は見つかる」と折に触れて語る五嶋。夢を見失いがちな、今の若い人々に言いたいことは?
「人それぞれのバリューがどうあるか、は他の誰にも計れない。だから、『自分を大切にしてこそ他を大切に考えることができる』が夢の基本ではないでしょうか」
“パートナー”のヴァイオリンという楽器は「世界の宝。そう考えると、自分の技術や思いなんて、小粒なもの。僕という小粒が、巨大な計り知れない頭脳と技術へ対峙している。これが現状です」。
今後の取り組みについて「僕が大好きな、現代音楽の良さを分ってもらえる機会を見失いたくないですね。あと、ベートーヴェンの協奏曲はソリストで、シェーンベルクの『浄夜』はオーケストラの一員として、一つのステージで演奏したい」と語る。
常に新しい夢へと向かっていく五嶋。では、現在の“一番の夢”とは?
「夢の中で作曲した曲を、ぜひ譜面にしたいと思っているのですが、作曲は僕の手が届くものではないかもしれません。でも、もう少しすれば、何かあれこれのメロディを具体化できるようにも思えてきて…。でも、現時点ではまったくの夢ですね」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2014年7月号から)
レナード・スラットキン(指揮) フランス国立リヨン管弦楽団
ラロ:スペイン交響曲
7/10(木)19:00 川口総合文化センターリリア
問:リリア・チケットセンター048-254-9900
7/11(金)18:45 愛知県芸術劇場コンサートホール
問:CBC事業部052-241-8118
7/12(土)15:00 ザ・シンフォニーホール
問:ABCチケットインフォメーション06-6453-6000
7/13(日)15:00 シンフォニア岩国
問:シンフォニア岩国0827-29-1600
7/15(火)19:00 アクロス福岡シンフォニーホール
問:アクロス福岡チケットセンター092-725-9112
7/16(水)19:00 横浜みなとみらいホール
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
7/17(木)19:00 サントリーホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960
*フランス国立リヨン管弦楽団は他に、岩手県民会館(7/9)、東京芸術劇場(7/19)で公演があります。
ケント・ナガノ(指揮) モントリオール交響楽団
ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ調
10/10(金)19:00 東京芸術劇場コンサートホール
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296
10/11(土)19:00 ハーモニーホールふくい
問:ハーモニーホールふくいチケットセンター0776-38-8282
10/16(木)19:00 サントリーホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960
*モントリオール交響楽団は他に、京都コンサートホール(10/12)、横須賀芸術劇場(10/13)、札幌コンサートホールKitara(10/18)で公演があります。