若き才能あふれる同い年2人の競演が実現
日本フィル12月定期に、1986年シンガポール生まれの指揮者カーチュン・ウォンが登場する。2016年、第5回グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝以来、世界で活躍する若きマエストロだが、日本にも拠点があり、この1年は代役などで国内各地の楽団に出演して、その実力を広く知らしめた。日本フィルとの初共演は今年3月。独特のサウンド(特にベースの表現の豊かさ!)を引き出して鮮やかな好演を実現し、会場も沸いた。そして、その1回の成功が幸福な出会いとなり、なんと同楽団首席客演指揮者の就任が決まったのである。
その「就任披露」記念公演となる12月は、アルチュニアンのトランペット協奏曲とマーラーの交響曲第5番が披露される。20世紀アルメニアの人気協奏曲のソリストは、同楽団ソロ・トランペット奏者、1986年イタリア生まれのオッタビアーノ・クリストーフォリ。まだ30代だが、2009年入団以来、輝かしい名奏を重ねて存在感抜群の名手である。しかもカーチュンとは同い年。若さと貫禄を併せもつ2人による、息の合った快演が楽しみだ。マーラーの5番は冒頭の葬送から最後の熱狂まで、複雑な感情が交錯する大曲だが、作曲者の名を冠するコンクールの覇者がどんな名演を作り上げるのか、期待が高まる一方だ。
実はこの2曲、残念ながらコロナ禍で開催できなかった20年3月定期と同内容で、本来はこのコンビ初共演演目となるはずだったもの。関係性の劇的な変化を経て、改めて臨む同演目。両者の強い思い、しかと見届けたい。
文:林昌英
(ぶらあぼ2021年12月号より)
第736回 東京定期演奏会〈秋季〉
2021.12/10(金)19:00、12/11(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp