オペラ夏の祭典《ニュルンベルクのマイスタージンガー》が開幕!

新国立劇場で満を持して上演!

 新国立劇場で11月18日、新制作オペラ、ワーグナーの楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》が開幕した。これに先立ち11月15日に行われた最終総稽古(ゲネラルプローベ)を取材した。
(2021.11/15 新国立劇場 オペラパレス  撮影・文:寺司正彦)

中央:トーマス・ヨハネス・マイヤー(ハンス・ザックス)
左より:伊藤達人(ダーヴィット)、シュテファン・フィンケ(ヴァルター・フォン・シュトルツィング)、
山下牧子(マグダレーネ)、林 正子(エーファ)

  本公演は、東京2020オリンピック・パラリンピックにあわせ、大野和士・新国立劇場オペラ芸術監督の総合プロデュースのもと、都と国が共同でオペラを制作。『オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World』として、2019年に上演されたオペラ《トゥーランドット》に続く第2作。東京文化会館、新国立劇場、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場の共同制作で、19年のザルツブルク、20年のドレスデンを経て、東京での披露となる。

 当初、20年夏に東京文化会館ほかで上演される予定だったが、コロナ禍で21年夏に延期。しかし、今夏の東京文化会館での上演も中止となり、新国立劇場2021/22シーズンでようやく上演の運びとなった。キャストの交代こそあれ、ドイツ、オーストリアから歌手4名が来日、厳しい待機期間を経験し開催にこぎつけた。

左より:妻屋秀和(ハンス・フォルツ)、鈴木准(ウルリヒ・アイスリンガー)、長谷川顯(ハンス・シュヴァルツ)、大沼徹(ヘルマン・オルテル)、秋谷直之(バルタザール・ツォルン)、林正子(エーファ)、菅野敦(アウグスティン・モーザー)、シュテファン・フィンケ(ヴァルター・フォン・シュトルツィング)、青山貴(フリッツ・コートナー)、与那城敬(コンラート・ナハティガル)、村上公太(クンツ・フォーゲルゲザング)、ギド・イェンティンス(ファイト・ポーグナー)、アドリアン・エレート(ジクストゥス・ベックメッサー)、山下牧子(マグダレーネ)、伊藤達人(ダーヴィット)

 《ニュルンベルクのマイスタージンガー》の国内での本格的な舞台上演は、同劇場05/06シーズン、バイエルン国立歌劇場日本公演(ともに2005年9月〜10月に上演)以来16年ぶりとなる。ワーグナーのオペラとしてはめずらしく喜劇で(あまり上演されない初期作品を除くと唯一)、16世紀中ごろのドイツ・ニュルンベルクを舞台に全3幕15場からなり、演奏だけでも4時間半から5時間ほどかかる大作だ(本公演では休憩込みで約6時間)。

 物語は、こうだ。
 金細工師の親方ポーグナーの娘エーファに一目惚れした騎士ヴァルターは、ヨハネ祭での歌合戦の勝利者がエーファを花嫁にできると知り、エーファに求婚する資格を得るためマイスターになることを決意する。歌合戦に出場する試験で歌うヴァルターは、歌の規則・心得を知らない。ヴァルターの歌を聴いたマイスターの面々が侃々諤々の議論をするなか、靴職人ザックスだけはその才能に気づき、擁護する。ザックスはマイスターの歌の規則をヴァルターに伝授しつつ、彼が夢に見たという内容をそのまま歌にするよう助言。歌合戦でヴァルターは見事に優勝し、 エーファと結ばれる。

左:トーマス・ヨハネス・マイヤー(ハンス・ザックス) 右:林正子(エーファ)

 演出は、ドイツ気鋭の演出家イェンス=ダニエル・ヘルツォーク。「劇場」という場を全体の世界観に、廻り舞台をうまく使って鮮やかに舞台転換。歌合戦を「劇中劇」にし、ザックスを劇場支配人・プロデューサー・演出家とし、ポーグナーを筆頭のスポンサー、居並ぶマイスターたちを劇場を支えるパトロンたちに置き換えた。最後にはあっと驚く演出が待ち受けている。

 歌手陣に目を向けると、やはり注目はザックス役のトーマス・ヨハネス・マイヤー。新国立劇場でも《さまよえるオランダ人》などで名唱を聴かせたドイツ生まれのバリトンは、バイロイト音楽祭でも常連を続けるように、ワーグナー歌いの代表格。さすがの安定感で聴かせる。新国立劇場にたびたび出演し、いつも観客を沸かせているアドリアン・エレートは、持ち前のしゃれっ気で、宿敵ヴァルターやエーファに対するベックメッサーの心の変化・機微をうまく演じ、観客の笑いを誘い出す。

左:山下牧子(マグダレーネ) 下段左より:トーマス・ヨハネス・マイヤー(ハンス・ザックス)、アドリアン・エレート(ジクストゥス・ベックメッサー) 上段左より:林正子(エーファ)、シュテファン・フィンケ(ヴァルター・フォン・シュトルツィング)

 そして、日本人の歌手たちも、新国立劇場、東京二期会などで常連の、錚々たる布陣。なかでも、新国立劇場オペラ研修所の修了生で今春の同劇場《夜鳴きうぐいす》でも評判をとった伊藤達人が主要キャストのひとりダーヴィットに抜擢されたのは注目に値する。

 ピットに入るのは、大野が音楽監督を務める東京都交響楽団。互いの深い信頼関係と相まって、ワーグナー特有の重厚かつ美しい響きを醸し出す。

 最後の場面でザックスが、「厳しい社会にあって、芸術家をないがしろにしては、真の芸術は守られない。だからこそ、マイスターを敬うのだ。そうすれば心ある人々をとらえられる」という意味の言葉をヴァルターにそして、民衆に語りかけるが、このことは今の時代にも考えなくてはならないことだろう。そうした意味でも、いま《マイスタージンガー》を上演するのは、まったく時宜にかなうものだ。

 公演はこのあと、11月21日、24日、28日、12月1日に上演される。

左:山下牧子(マグダレーネ) 右:アドリアン・エレート(ジクストゥス・ベックメッサー) 

【Information】
新国立劇場 2021/22シーズンオペラ
オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World
ニュルンベルクのマイスタージンガー(新制作)

2021.11/18(木)16:00、11/21(日)14:00、11/24(水)14:00、11/28(日)14:00、12/1(水)14:00
新国立劇場 オペラパレス

指揮:大野和士
演出:イェンス=ダニエル・ヘルツォーク

ハンス・ザックス:トーマス・ヨハネス・マイヤー
ファイト・ポーグナー:ギド・イェンティンス
クンツ・フォーゲルゲザング:村上公太
コンラート・ナハティガル:与那城敬
ジクストゥス・ベックメッサー:アドリアン・エレート
フリッツ・コートナー:青山貴
バルタザール・ツォルン:秋谷直之
ウルリヒ・アイスリンガー:鈴木准
アウグスティン・モーザー:菅野敦
ヘルマン・オルテル:大沼徹
ハンス・シュヴァルツ:長谷川顯
ハンス・フォルツ:妻屋秀和
ヴァルター・フォン・シュトルツィング:シュテファン・フィンケ
ダーヴィット:伊藤達人
エーファ:林正子
マグダレーネ:山下牧子
夜警:志村文彦

合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団
管弦楽:東京都交響楽団

問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/

https://opera-festival.com