若林かをりの奏でるシャリーノからは風の音、星空の輝き、異界からの声、彼方の地平線、透き通った空気など、イメージが豊かに浮かんでくる。技術偏重に陥りがちな現代音楽で、難度を少しも感じさせずにこれだけのポエジーを表現していることが驚きだ。各作品には哲学や文学からインスパイアされたしゃれたタイトルがついているのだから、こういうアプローチは作曲者にとっても望ましいのではないか。同封されたタイナカジュンペイによる写真集も音楽とこだましつつイメージを膨らませ、聴き手の思考は深まり想像が広がっていく。常に身振りを伴う実演とは異なる、CDの特性がうまく生きている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年11月号より)
【information】
CD『Lux in Tenebris 闇の中の光/若林かをり』
シャリーノ:ベルクソンの時計、さようなら 風の家、死の太鼓、遠景のオーラ、三美神が花開かせるヴィーナス、ヘルメス、雲に捧げられたテキストで、アトンの光輝く地平線、風が運んだ対蹠地からの手紙、どのようにして魔法は生み出されるのか?、歓喜の歌 他
若林かをり(フルート/アルトフルート)
タイナカジュンペイ(写真)
コジマ録音
ALCD-128,129(2枚組+写真集) ¥5960(税込)