高崎芸術劇場 大友直人 Presents T-Shotシリーズ vol.5 戸澤采紀 ヴァイオリン・リサイタル

若き正統派ヴァイオリニストが3つの傑作ソナタを披露

 2019年開館の高崎芸術劇場は、指揮者の大友直人を芸術監督に迎え、彼のプロデュースで多くのアーティストの公演を行っている。なかでも、才能豊かな逸材を紹介する「T-Shotシリーズ」は、同劇場音楽ホールでの若手演奏家たちのリサイタル開催と、そのライブ録音や映像の制作がセットとなっていて、特別な注目を集めている。文化創造の場としての「劇場」の存在意義をも問いかけるような好企画と言えるだろう。

 同シリーズ第5弾はヴァイオリンの戸澤采紀。16年第85回日本音楽コンクール最年少優勝(15歳!)など多くのコンクールで入賞し、チェルカトーレ弦楽四重奏団奏者としても活躍している。父親は東京シティ・フィルの顔である戸澤哲夫。しかし、プロフィール以上に特筆したいのは、聴衆から共演者に至るまで、彼女の演奏を体験した多くの人が「この人はすごい!」と語っていること。思い起こせば、コンクール制覇時の泰然と構えて濃密に歌い込む演奏ぶりは、10代とは思えぬ風格さえあって圧巻だった。それから5年、正統派といえる名技を磨き上げ、ますます表現の幅を広げている。

 本公演は、共演者の特長を最大限に引き出す名手、林絵里のピアノとともに、時代も国もタイプも異なるヴァイオリン・ソナタの3名作──モーツァルトの変ロ長調K.454、サン=サーンスの第1番、プロコフィエフの第1番を聴かせる。いまの自分を出し尽くし、新たな名演を残そうという意欲が伝わる演目であり、衝撃の優勝から進化・深化した彼女の現在地を示す、重要なステージとなるはずだ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年10月号より)

2021.10/30(土)13:30 高崎芸術劇場 音楽ホール
問:高崎芸術劇場チケットセンター027-321-3900
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/