INTERVIEW トリオ・アコード(ピアノ三重奏団)

名手揃いの同級生3人が奏でる濃密なアンサンブル

左より:津田裕也、白井 圭、門脇大樹
(c)T.Tairadate

 平日のお昼にリーズナブルな料金で楽しめると好評の浜離宮ランチタイムコンサートに、実力派ピアノ三重奏のトリオ・アコードが登場する。白井圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)の3人は東京藝術大学の同級生。トリオ結成のきっかけも、大学在学中の室内楽の授業のためだった。

津田「白井、門脇は附属高校からで、僕は大学から。2人は高校時代によく一緒に組んでいて、僕がそこに加わって一緒に授業を取ったのがきっかけでした」
門脇「僕が試験やコンクールでよく津田くんにピアノを弾いてもらっていたので、素晴らしいピアニストがいるよと白井くんに紹介したんです」
白井「授業では半年に1曲のペースで勉強するんですけど、最初にやったのが今回のコンサートでも弾く『幽霊』なんです」
津田「でも最初の半年にはブラームスの3番もやったよ」
白井「そうだったっけ? すみません(笑)」
門脇「ブラームスは後期にやったんじゃなかったっけ?」
津田「いや、もう譜読みを始めてた」
門脇「よく覚えてるね」
津田「大変だったから覚えてる」

 若き音楽学生たちがピアノ三重奏を結成した日々の記憶をたどってもらったところ、まず最初に恩師の思い出が返ってきた。

白井「じつは学生時代を思い返すと、何といっても、そこで習ったゴールドベルク山根美代子先生の印象なんです。初回のレッスンからいきなり、3人がそれまで聞いたことがないような言葉で、音楽のことを熱心に説明してくださった。それを消化するのに必死でした。もちろん3人で楽しく消化しようとチャレンジできたからよかったんだけど、3人で弾くから楽しいとか、そういう感じではなかったですね」
津田「通常は1学期に3回ぐらいのレッスンしか受けられないんですけど、山根先生はものすごく熱心にやってくださって。お弁当を持ってきてくれて、昼休み返上で長い時間見てくださるんです。授業の枠を超えて、いろいろなことを伝えてくださる熱意に圧倒されました」
白井「それに応えなきゃっていうので、レッスンのあとも3人でずっと、あれはどういうことだったんだろうとか話し合って。それができる仲間だったから良かったんですけどね」
門脇「授業なんて思ってなかったね。月に2、3回はあったような。ほぼ毎日練習してたんじゃないかな。後輩が、僕たちが合わせているのを横目に見ながら昼食に出て、夕方に戻ってきたらまだ弾いていたと言ってました」
白井「半分はおしゃべりだったかもしれないけどね(笑)」
津田「ああでもない、こうでもないと。あの時にとことんできたから、今があるのだろうと思います」

 プログラムは、「幽霊」のニ長調を受けて、後半にニ短調のメンデルスゾーンの第1番。あいだに武満徹の「ビトゥイーン・タイズ」を挟んだ。

白井「ベートーヴェンの新しい試み。ピアノ三重奏という編成でチャレンジしている作品です」
津田「とくに第2楽章は、ものすごく独創的で、あの響きには最初ちょっとびっくりするような。非常に生命力を感じる作品です。メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番も学生時代からよく弾いている曲ですが、そのあいだにまったく雰囲気の違うものを入れたいと思って、武満徹さんの『ビトゥイーン・タイズ』を、3人では初めて演奏します」
白井「メンデルスゾーンはオーソドックスだけれども、とてもバランスがよくて、美しいメロディに溢れているので、初めてコンサートにいらっしゃるというお客様も聴きやすいと思います」
津田「『ビトゥイーン・タイズ』は、時間の流れ方が違うというか、とても響きの美しい、たゆたうようなきれいな曲です。3つの楽器のユニゾンがけっこうあるのですが、そこでそれぞれの楽器の響きが溶け合って、新しい楽器の音が立ち上るような響きが印象的です。すごく生命力のある感じの『幽霊』。ロマン派を代表する三重奏曲のメンデルスゾーン。いろんな対比が生きたらいいなと思っています」

 ピアノ三重奏というと、古くは100万ドル・トリオのようにソリスト3人の華やかな個性のせめぎ合いのようなイメージもあるし、もちろん調和を重じているアンサンブルもあって、そのスタンスは弦楽四重奏以上にさまざま。その特徴や一番の魅力はどんなところにあるのだろう。

門脇「自分はどちらかというと、ソリスティックな楽器が集まってやるイメージのほうが強かったんですけど、先ほどの山根先生が、『ピアノ三重奏はじつは二重奏』だと教えてくださったのが印象的でした。ピアノの右手と左手をひとつのセットとすると、その右手の役割をするヴァイオリンと、左手の役割のチェロが、高音部と低音部で1セット。その2つのセットの二重奏だと。それを聞いて、この編成に対するイメージがすごく変わりました」
津田「僕もその話はすごく印象に残っています。もちろんそれぞれの楽器がそれぞれ動き回るんですけど、大きな意味でのデュオでもある。だから、自由にできるところと調和するところの両方があるところが魅力なのかなと思いますね」
白井「たとえば弦楽四重奏と比べると、ピアノが入ることで、よりシンフォニックになっていると思います。弦楽四重奏だとチェロが上に行っちゃって下がスカスカになってしまうところにピアノがいるし、チェロが下で支えて上でピアノが輝かしいパッセージを弾くことだってできるし。ピアノと弦楽器が混ざることで、いろんな可能性が生まれる編成です」

 ピアノ三重奏というシンプルな3人編成には、そんな多様な魅力が詰まっているのだ。その代表的名曲から美しい現代曲までを楽しみつくす秋の一日。

門脇「今回のコンサートは、さっき二重奏と言ったような3つの楽器の親密なアンサンブルもあれば、たとえばベートーヴェンは後期になって、各楽器のテーマの役割もすごく大きくなって、各楽器にソロの見せ場もある。ピアノ三重奏のいろんな面を楽しんで聴いてもらえるはずです」
津田「ピアノ三重奏曲という編成の、まったく違う時代の3曲それぞれの味わい、キャラクターを感じていただけたらと思いますし、舞台上のわれわれが、生で交わしている音の会話を客席の皆さんと共有できたらいいですね」
白井「本当にそうだね、ライブなので、『あ、打ち合わせしてないことやってる!』とかっていうことも起こるし、逆に、打ち合わせしてもうまく行ってなかったところがうまく行ったりすると、なんかうれしくなっちゃうんですよね。どんどん楽しくなっちゃう。そんな、いろんな要素が舞台上では起こっていますので、客席でただじっとして、何かをわからなきゃいけないっていうふうに聴くのではなく、リラックスして、かしこまらず、浴びるように聴いてください。“わかる”とか“わからない”とかじゃなく、とにかく楽しく聴いてもらえたらうれしいです」
取材・文:宮本 明

浜離宮ランチタイムコンサートvol.207 トリオ・アコード
2021.10/28(木)11:30 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/