10/4(月) 大阪フィルハーモニー交響楽団
10/5(火) 読売日本交響楽団
10/6(水) 東京フィルハーモニー交響楽団
10/7(木) セントラル愛知交響楽団
話題のソリストたちを迎え、趣向を凝らしたプログラムが繰り広げられる4日間
文:飯尾洋一
アジアは広い。毎回、そんな思いを抱かせてくれるのが「アジアオーケストラウィーク」。2002年にスタートして以来、アジア太平洋地域の各国から有力オーケストラが招かれ、お国柄が反映されたプログラムで、この地域の音楽文化の多様さと豊かさが伝えられてきた。しかし、コロナ禍の現在、これまでのように海外からオーケストラを招くことは困難だ。そこで、今回は日本の4つのオーケストラが10月4日から7日にかけて公演を行う。秋山和慶指揮大阪フィルハーモニー交響楽団、藤岡幸夫指揮読売日本交響楽団、三ツ橋敬子指揮東京フィルハーモニー交響楽団、角田鋼亮指揮セントラル愛知交響楽団が、それぞれ東西オーケストラ史を凝縮したような興味深いプログラムを用意してくれた。
まず10月4日、先陣を切るのは秋山和慶指揮大阪フィル。プログラムはグエン・メイツィ・リンの「穏やかな風 オーケストラのための」、細川俊夫の「月夜の蓮―モーツァルトへのオマージュ―ピアノとオーケストラのための」(ピアノは児玉桃)、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。東洋から西洋へと向かうようなプログラムが組まれた。ベトナムのグエン・メイツィ・リンはロシアで作曲を学び、国際的に活躍する作曲家。「穏やかな風」は曲名から期待される通り、ゆったりとした抒情的な管弦楽曲で、初めて聴く人にも親しみやすい。細川俊夫の「月夜の蓮―モーツァルトへのオマージュ」は2006年のモーツァルト生誕250年を機に北ドイツ放送より委嘱された作品で、題材としてモーツァルトのピアノ協奏曲第23番が用いられている。ピアノ独奏は世界初演も務めた児玉桃。東洋的世界を思わせる月夜の蓮の情景と、西洋音楽のシンボル的存在のモーツァルトが結びつく。そして、ベートーヴェンの「運命」では大ベテラン秋山和慶が現在の大阪フィルの充実ぶりを伝えてくれることだろう。
(c) Shin Yamagishi (c) Marco Borggreve
10月5日の藤岡幸夫指揮読響は、イサン・ユンの「Bara」、陳鋼&何占豪のヴァイオリン協奏曲「梁山伯と祝英台」、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」を並べたプログラム。チェコのドヴォルザークは当時の「新世界」であったアメリカへと渡り、現地の音楽からインスピレーションを受けてこの傑作交響曲を書いたわけだが、西洋音楽にとって20世紀の「新世界」はアジアということになるのかもしれない。韓国からドイツに渡って世界的な作曲家となったイサン・ユンの「Bara」は1962年にベルリンで初演された作品。曲名は韓国の仏教儀式で用いられるシンバル状の打楽器に由来する。中国の作曲家、陳鋼と何占豪の合作によるヴァイオリン協奏曲「梁山伯と祝英台」はアジア発の人気曲といってもいいだろう。中国の伝統演劇「梁山伯と祝英台」を題材として、協奏曲という西洋的なフォーマットに中国的な音楽語法がたっぷりと詰め込まれる(独奏は成田達輝)。甘美なメロディや独奏ヴァイオリンの華やかな技巧など、聴きどころ満載の楽しい作品だ。ドヴォルザークの「新世界より」は藤岡幸夫が大切にするレパートリー。ディテールにまでこだわった解釈が作品本来の姿を伝えてくれることだろう。
(c) Earl Ross (c)Yoshinobu Fukaya
三ツ橋敬子指揮東京フィルが披露するのは、冨田勲の交響詩「新・ジャングル大帝 2009年」、ドビュッシーの「月の光」管弦楽版、ストラヴィンスキーの「火の鳥」(1919版)、冨田勲の「ドクター・コッぺリウス」のRise of The Planet 9より。作曲家であり先駆的シンセサイザー音楽家でもあった冨田勲へのオマージュと呼ぶべきプログラムになっている。冨田ファンであれば、「月の光」と「火の鳥」は冨田勲がシンセサイザーで手掛けた作品だったことをすぐに思い出すはず。交響詩「新・ジャングル大帝 2009年」は名作テレビアニメの音楽をもとにナレーション(大山大輔)付き管弦楽作品として構成された作品。子供たちがオーケストラに親しめるような工夫が凝らされており、プロコフィエフの「ピーターと狼」の現代版のような趣もある。「ドクター・コッペリウス」は作曲者の遺作で、先般の東京オリンピック開会式で使用されて話題を呼んだ。壮麗なスペクタクルを期待できそうだ。
(c) Hikaru Hoshi (c) Makoto Kamiya
角田鋼亮指揮セントラル愛知響は東洋と西洋のつながりに着目したプログラム。山田耕筰の序曲ニ長調、貴志康一のヴァイオリン協奏曲(独奏は辻彩奈)、ペルトの「東洋と西洋」、ドビュッシーの交響詩「海」が演奏される。ともにベルリンで学んだ山田耕筰と貴志康一の作品は、20世紀前半の日本音楽の歩みを振り返るうえでの記念碑的な作品といえるだろう。山田耕筰の序曲は完全に初期ロマン派のスタイルで書かれており、ほとんどメンデルスゾーン風。対照的に貴志康一のヴァイオリン協奏曲では日本らしさ、日本人にしかできない表現が追求されている。ソリストの華やかな技巧も聴きもの。ペルトの「東洋と西洋」は東方教会と西方教会の接点に着目した作品。ドビュッシーは当時のジャポニズムを反映して、「海」の楽譜に葛飾北斎の「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」を模したデザインを用いている。日本とは少なからず縁のある名曲だ。繊細で色彩感豊かなオーケストレーションを味わいたい。
4つの楽団が趣向を凝らしたプログラムをそろえた今年の「アジアオーケストラウィーク」。普段であれば「アジアと日本」という対比に目が向きがちだが、今回の公演は、日本のオーケストラもまたアジアのオーケストラの一員であり、同時に世界共通の文化であるオーケストラの一部であるという原点を再確認させてくれることになるのではないだろうか。
10/4|大阪フィルハーモニー交響楽団
指揮/秋山和慶 ピアノ/児玉桃
10/4(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
♪グエン・メイツィ・リン:「穏やかな風」オーケストラのための
♪細川俊夫:月夜の蓮―モーツァルトへのオマージュ―ピアノとオーケストラのための
♪ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 作品67 「運命」
Message from 児玉桃
2021年のアジア・オーケストラ・ウィークに、細川俊夫作曲の「月夜の蓮」を大阪フィルハーモニー交響楽団と秋山和慶先生の指揮で、演奏させていただきますことを大変光栄に思っております。「月夜の蓮」は、2006年にハンブルグで世界初演をさせていただきました。その後、何十回となく世界の色々な国やオーケストラと演奏しておりますが、弾くたびに、曲の深い詩情や色彩、陰影 また、ドラマティックな音の世界を再発見します。蓮がどのような環境におかれても「美」を表現し続ける姿は、時代を超えて人の心を強く打つように感じます。今は多くのピアニストが演奏し、ピアノ作品の古典的なレパートリーになりつつあります。
細川氏は武満徹さんとも交流が深かったようです。そういった意味でも、このたび東京オペラシティコンサートホール・タケミツメモリアルで、「細川ワールド」を皆様と分かちあえることを楽しみにしております。
10/5|読売日本交響楽団
指揮/藤岡幸夫 ヴァイオリン/成田達輝
10/5(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
♪イサン・ユン:Bara(1960)
♪陳鋼&何占豪:ヴァイオリン協奏曲 「梁山伯と祝英台」
♪ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」
Message from 成田達輝
このたび「アジアオーケストラウィーク2021」で演奏させていただくことになりました。今回演奏する曲は、「梁山泊と祝英台」。リャンシャンボ(Liang shan bo)梁山伯と、チュウインタイ(Zhu ying tai)祝英台という17歳の若い男女の痛ましくも壮絶な美しい物語がベースとなっています。
今、この曲を勉強しているところなのですが、楽譜を見て感じるのは、曲全体を中国音階(五音音階)が貫いていて、とても親しみやすいメロディが多いということです。そしてソロヴァイオリン譜にも独特なグリッサンド表記があります。実際に二胡など中国の楽器で弾かれることが多いようで、民謡歌手が歌っているようなメロディが多くて、なんとなく懐かしさを感じます。現代音楽というよりは、むしろ歌謡曲に近いかな。実は私の父方の祖母は、北海道民謡の歌手で、私はずっと昔から今に至るまで民謡に親しんできたので、タイプは違うけれど同じ民謡のパワーを感じ共感を覚えます。
そして、今回共演させていただく読売日本交響楽団さんの中には北海道出身の団員さんが数人いらっしゃいますし、藤岡マエストロとオーケストラの皆さんと演奏できることが今からとても楽しみに思います。
10/6|東京フィルハーモニー交響楽団
指揮/三ツ橋敬子 語り・歌/大山大輔
10/6(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
♪冨田勲:交響詩「新・ジャングル大帝 2009年」
♪ドビュッシー:月の光
♪ストラヴィンスキー:「火の鳥」(1919版)
♪冨田勲:「ドクター・コッぺリウス」Rise of The Planet 9より
10/7|セントラル愛知交響楽団
指揮/角田鋼亮 ヴァイオリン/辻彩奈
10/7(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
♪山田耕筰:序曲ニ長調
♪貴志康一:ヴァイオリン協奏曲
♪ペルト:東洋と西洋
♪ドビュッシー:交響詩「海」
Message from 辻彩奈
貴志康一さんという作曲家の存在は、今回初めて知りました。指揮者の角田さんから「ぜひ、AOWで貴志さんの作品を演奏しませんか?」とお誘いいただき、一念発起しました。新しい作品に出会い挑戦できる機会があることは、本当に有難く、嬉しく思っています。
このヴァイオリン協奏曲は、日本民謡をもとに作曲されているので、メロディーや和声進行が日本的で、日本人の私たちにとってとても聴きやすい曲だなと感じます。ソロパートはスケールなど技巧的な部分も多くありますし、オーケストラと合わさるとどうなるのか…きっととても刺激的な機会になると思います。今からとても楽しみです。
そして、先日お亡くなりになった辻久子さんが初演者を務められていると聞きました。たまたま同じ姓であるだけで血縁関係はないものの、このタイミングで私が演奏するのは何かのご縁だと感じています。心込めて演奏したいと思います。
※参考音源は本公演とは演奏者が異なります
HISTORY OF THE ASIA ORCHESTRA WEEK
2002年にスタートしたアジアオーケストラウィーク。韓国・中国といった近隣の国から、タイ・ベトナム・マレーシアといった東南アジア諸国、さらにはオーストラリア・ニュージーランドといったオセアニアの国々やトルコ・インド/スリランカからの参加もあり、これまでの参加楽団は実に16ヵ国におよぶ。ここに振り返ってみても、実にバラエティに富んでいて興味深い。
近年は、日本のオーケストラとの合同演奏が実施された年も多く、アジアのオーケストラの楽員同士が、互いの現状を知り、交流を深める貴重な場ともなっていた。今年は国内の4楽団が襷をつなぐが、コロナ禍が収束し、再びこうした地域から参加が実現することを願いたい。
◎バンコク交響楽団 Bangkok Symphony Orchestra(タイ)
◎フィリピン・フィルハーモニック管弦楽団 The Philippine Philharmonic Orchestra(フィリピン)
◎クィーンズランド管弦楽団 The Queensland Orchestra(オーストラリア)
◎中国国家交響楽団 China National Symphony Orchestra(中国)
◎プチョン・フィルハーモニック管弦楽団 Bucheon Philharmonic Orchestra(韓国)
◎イスタンブール国立交響楽団 Istanbul State Symphony Orchestra(トルコ)
◎モンゴル国立フィルハーモニック交響楽団 Mongolian State Philharmonics Symphony Orchestra(モンゴル)
◎ニュージーランド交響楽団 New Zealand Symphony Orchestra(ニュージーランド)
◎オール関西シンフォニーオーケストラ All Kansai Symphony Orchestra(日本)
◎シンガポール交響楽団 Singapore Symphony Orchestra(シンガポール)
◎スウォン・フィルハーモニック管弦楽団 Suwon Philharmonic Orchestra(韓国)
◎天津交響楽団 Tianjin Symphony Orchestra(中国)
◎上海交響楽団 Shanghai Symphony Orchestra(中国)
◎ソウル・フィルハーモニック管弦楽団 Seoul Philharmonic Orchestra(韓国)
◎ベトナム国立交響楽団 Vietnam National Symphony Orchestra(ベトナム)
◎マレーシア国立交響楽団 National Symphony Orchestra of Malaysia(マレーシア)
◎大阪フィルハーモニー交響楽団 Osaka Philharmonic Orchestra(日本)
◎大阪センチュリー交響楽団 Century Orchestra Osaka(日本)
◎テジョン・フィルハーモニック管弦楽団 Daejeon Philharmonic Orchestra(韓国)
◎タスマニア交響楽団 Tasmanian Symphony Orchestra(オーストラリア)
◎ヌサンタラ交響楽団 Nusantara Symphony Orchestra(インドネシア)
◎広州交響楽団 Guangzhou Symphony Orchestra(中国)
◎シドニー交響楽団 Sydney Symphony(オーストラリア)
◎韓国交響楽団 Korean Symphony Orcehstra(韓国)
◎ハルビン・黒龍江交響楽団 Heilongjiang Symphony Orchestra of Harbin(中国)
◎舞台芸術国際フェスティバル・オーケストラ International Performing Arts Festival Orchestra(日本)
◎KBS交響楽団 KBS Symphony Orchestra(韓国)
◎昆明交響楽団 Kunming Symphony Orchestra(中国)
◎インド=スリランカ交響楽団 India-Sri Lanka Goodwill Orchestra(インド/スリランカ)
◎四川交響楽団 Sichuan Symphony Orchestra(中国)
◎ホーチミン市交響楽団 Ho Chi Minh City Symphony Orchestra(ベトナム)
◎プサン・フィルハーモニー交響楽団 Busan Philharmonic Orchestra(韓国)
◎タイ・フィルハーモニック管弦楽団 Thailand Philharmonic Orchestra(タイ)
◎武漢管弦楽団 Wuhan Orchestra(中国)
◎インチョン・フィルハーモニック管弦楽団 Incheon Philharmonic Orchestra(韓国)
◎トルコ国立大統領交響楽団 Presidential Symphony Orchestra(トルコ)
◎光州交響楽団 Gwangju Symphony Orchestra(韓国)
◎大邱市立交響楽団 Daegu Symphony Orchestra(韓国)
◎クライストチャーチ交響楽団 Christchurch Symphony Orchestra(ニュージーランド)
◎仙台フィルハーモニー管弦楽団 Sendai Philharmonic Orchestra(日本)
◎仙台フィルハーモニー管弦楽団 クライストチャーチ交響楽団 合同演奏会
◎モッポ市立交響楽団 City of Mokpo Symphony Orchestra(韓国)
◎ハノイ・フィルハーモニー管弦楽団 Hanoi Philharmonic Orchestra(ベトナム)
◎九州交響楽団 Kyushu Symphony Orchestra(日本)
◎九州交響楽団 ハノイ・フィルハーモニー管弦楽団 合同演奏会
◎マニラ・フィルハーモニー管弦楽団 Manila Philharmonic Orchestra(フィリピン)
◎サザン・シンフォニア Southern Sinfonia(ニュージーランド)
◎山形交響楽団 Yamagata Symphony Orchestra(日本)
◎山形交響楽団 サザン・シンフォニア 合同演奏会
◎ホーチミン市交響楽団 Ho Chi Minh City Symphony Orhcestra(ベトナム)
◎キョンギ・フィルハーモニー管弦楽団 Gyeonggi Philharmonic Orchestra(韓国)
◎名古屋フィルハーモニー交響楽団 Nagoya Philharmonic Orchestra(日本)
◎ホーチミン市交響楽団 名古屋フィルハーモニー交響楽団 合同演奏会
◎中国国家交響楽団 China National Symphony Orchestra(中国)
◎テジョン・フィルハーモニック管弦楽団 Daejeon Philharmonic Orchestra(韓国)
◎大阪交響楽団 Osaka Symphony Orchestra(日本)
◎テジョン・フィルハーモニック管弦楽団 大阪交響楽団 合同演奏会
◎バンコク交響楽団 Bangkok Symphony Orchestra(タイ)
◎チャンウォン交響楽団 Changwon Philharmonic Orchestra(韓国)
◎セントラル愛知交響楽団 Central Aichi Symphony Orchestra(日本)
◎バンコク交響楽団 セントラル愛知交響楽団 合同演奏会
◎上海フィルハーモニック管弦楽団 Shanghai Philharmonic Orchestra(中国)
◎マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団 Malaysian Philharmonic Orchestra(マレーシア)
◎関西フィルハーモニー管弦楽団 Kansai Philharmonic Orchestra(日本)
◎マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団 関西フィルハーモニー管弦楽団 合同演奏会
◎フィリピン・フィルハーモニック管弦楽団 Philippine Philharmonic Orchestra(フィリピン)
◎杭州フィルハーモニック管弦楽団 Hangzhou Philharmonic Orchestra(中国)
◎群馬交響楽団 Gunma Symphony Orchestra(日本)
◎フィリピン・フィルハーモニック管弦楽団 群馬交響楽団 合同演奏
◎香港シンフォニエッタ Hong Kong Sinfoniett(中国)
◎ジャカルタ・シティ・フィルハーモニック Jakarta City Philharmonic(インドネシア)
◎オーケストラ・アンサンブル金沢 Orchestra Ensemble Kanazawa(日本)
◎オーケストラ・アンサンブル金沢 香港シンフォニエッタ 合同演奏