ヴェンゲーロフ・フェスティバル 2014

稀代のヴァイオリニストによる祭典

 ヴァイオリンという楽器の魅力。それを常に堪能させてくれる稀代の演奏家がマキシム・ヴェンゲーロフだ。音色の多彩さ、華麗なテクニックというのはヴェンゲーロフの演奏芸術を知るうえでほんの入り口にしか過ぎない。作品ごとに弾き分けられるその音色のパレットの豊富さは驚きで、彼の演奏を聴いている時間はまたたく間に過ぎて行く。だから、彼が一時期ヴァイオリンから離れるというニュースを耳にした時には、寂しさを感じたものだった。しかし、ヴェンゲーロフは指揮活動を開始し、さらには2011年からヴァイオリン演奏にも復帰した。2012年からはロンドンの王立音楽院で「メニューイン・プロフェッサー」という特別教授にも就任している。音楽的なスケールを一段と増したヴェンゲーロフは昨年、日本の聴衆の前に登場し、大きな喝采を浴びた。
 そして2014年にも再び「ヴェンゲーロフ・フェスティバル」が開催される。ポーランド室内管弦楽団と共演するコンサートでは、作曲者モーツァルト自身がそうしたように、オーケストラを指揮しながら協奏曲を演奏する。演奏曲はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4、第5番に始まり、多彩なラインナップ。気品があり、時にチャーミングなヴェンゲーロフのモーツァルトは、他のヴァイオリニストには追随の出来ない世界だ。特に第5番「トルコ風」では、ヴェンゲーロフの鮮やかなテクニックを味わえるだろう。さらにチャイコフスキーのロマンティシズム、サン=サーンスのパッション、とヴェンゲーロフの魅力を余すところなく表現してくれるプログラムは、まさにヴァイオリン曲の王道でもあるのだ。
 リサイタルでも名手イタマール・ゴランのピアノをバックに、盛りだくさんなプログラム。すでに録音もあるエルガーのヴァイオリン・ソナタは、現在イギリスで活動するヴェンゲーロフにとっても重要な作品なのだろう。情熱的な音色と高貴さが同居するエルガーは、さらなる精神的な成長を見せているヴェンゲーロフならではの世界になるはず。プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番も難曲のひとつと言われる。第2番ほど明るくはなく、どちらかと言えば暗さを感じさせる作品だが、その中からヴェンゲーロフは天才的な感覚によって新たな魅力を引き出してくる。イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタが入っているのも楽しみだ。 
 またその公演に先立って、ヴェンゲーロフと葉加瀬太郎のジョイントセッションも開催が決まった(5月13、15日)。クラシックからポップスの世界まで幅広く活躍する葉加瀬とヴェンゲーロフのジョイントは意外な組み合わせと言ってよいだろう。ヴェンゲーロフがバッハの「シャコンヌ」を弾くなど、それぞれがソロで演奏を披露するほか、二人の共演も予定されている。作品そのものも魅力的だが、二人の共演によってどんな時間が生まれるのか、音楽ファンにとっては聴き逃せないコンサートとなるだろう。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ2014年4月号から)

Information
5月13日(火)、5月15日(木)、5月26日(月)、6月7日(土)
会場:サントリーホール
問:ローソンチケット 0570-000-407(オペレーター10:00〜20:00)
http://l-tike.com/vengerov  
★PCサイトからは座席選択購入可能