村松稔之(カウンターテナー)

ひたむきな想いで自らの声楽の道を切り拓く俊才

 Hakuju Hallのリクライニング・コンサートにカウンターテナーの村松稔之が登場。東京藝術大学にカウンターテナーとして入学し、大学院を首席で修了後イタリアへ留学。現在はバロックから現代曲までをレパートリーとして、オペラやコンサートなど活躍の場を広げている。子どもの頃から歌うことが大好きで、小学6年生の時に京都市少年合唱団にボーイ・ソプラノとして入団。中学2年生の時に、声楽の道に進むことを決意する。

 「ずっと声が変わらないので中2の時にきちんと調べてもらったら、すでに変声していたことがわかったんです。その時、声帯が太くて長い、つまり丈夫で声楽向きだと知り、この声で好きな歌をやろうと決意しました」

 高校は京都市立音楽高等学校(現・京都市立京都堀川音楽高等学校)に。そこでテノールやバリトンの練習をしたことも。高校時代はプロの歌手のCDを聴いても自分とはレベルが違いすぎて、参考にするにはどうしたらいいか悩んだという。そこで、コンクールで入賞する同世代のうまい人たちの歌を聴きに足を運び、息の吸い方や筋肉の動きを観察した。

 「大学1年生の時は、どんな曲を歌っても3分で声が出なくなっちゃうので“ウルトラマン”と言っていたんです。今思うと声帯を常にキャパシティ以上の力で使いすぎていたんですね。息も使える量以上に出そうとして、音程も不安定でした。恩師の伊原直子先生からご指導いただきながら、時には違う先生についている友だちのレッスンを見学させてもらったり。コレペティトールの授業では学部から博士課程の方も一緒にレッスンを受けるスタイルなので先輩方の聴講もでき、刺激を受けることで自分の中にたくさんの発声に対するアイディアの種を植えることができた感覚でした。大学院2年生のある日、シャワーを浴びていると突然ビビビと今まで学んできたことがまるで点と点が線になるように自分の声帯をコントロールするヒントを見つけることができ、アイディアの種から芽が出たみたいでした。今では、無駄な力を入れずそぎ落として、本当に必要な芯の部分だけを使い歌唱をしています。声って実はとても“エコ”な楽器なんですよ(笑)」

 5月のリクライニング・コンサートは、前半にチェンバロ伴奏によるイタリア古典歌曲、そして後半はピアノ伴奏による日本歌曲という贅沢なプログラムで挑む。

 「1回で2つの違うコンサートに来たと感じていただけるような内容にしたのは、“カウンターテナーってこういう声”ということを知っていただきたいから。曲間にはピアノの小品を挟んだりして、お客様にはぜひリラックスして足取りも軽くお帰りいただければと思います」

 チェンバロとピアノ、2つの楽器を操る圓谷(つむらや)俊貴は村松の藝大声楽科の同級生で、卒業後に古楽科に入学し直したという逸材。ふたりで作り出す癒しの1時間をぜひゆっくりと味わいたい。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ2021年4月号より)

第159回 リクライニング・コンサート
村松稔之 カウンターテナー・リサイタル
2021.5/14(金)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 
https://www.hakujuhall.jp