円熟味溢れる名匠のタクトで聴くモーツァルトとマーラー
昨年から相次ぐ指揮者変更で、多くのオーケストラのピンチを救ったひとりが尾高忠明である。現在は大阪フィルハーモニー交響楽団音楽監督として腕をふるうほか、各地の楽団に客演を重ねて、常に優れた演奏を聴かせる名匠である。この1年ほどの代演では、持ち前の安定感、温かく雄大な響きに加えて、演奏の熱気がさらに高まっているようにも感じられる。音楽界の危機に際してさらに情熱を燃やすマエストロの存在感は増す一方である。
4月の新日本フィルの定期も、残念ながら上岡敏之の来日は叶わなかったが、尾高がプログラム変更なしでの代演を引き受けた。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」、マーラーの交響曲第4番という名曲プログラムで、同楽団の能力を存分に引き出してくれるはず。マーラー演奏がまだ少ない現況で、ソプラノ独唱付きながら編成はやや小さめの第4番は、実現しやすい部類に入ることも変更なしの理由だろう。いまや貴重となったマーラー・サウンドを、尾高が作り上げる円熟の演奏で味わえる待望の機会となる。
協奏曲のヴァイオリン独奏も代役だが、若きカリスマと目される俊英、山根一仁の登場は当公演の嬉しい目玉となる。近現代もののシャープかつ没入した演奏が印象に残る山根が、モーツァルトの傑作からどんなメッセージを引き出すのか。ソプラノは予定通り、砂川涼子が出演。可憐な美声と容姿をもち、藤原歌劇団や新国立劇場で活躍中のヒロイン砂川の歌うマーラーもまた貴重で、幸福感あふれる聴きものになるはず。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年4月号より)
第631回 定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉
2021.4/8(木)19:00 サントリーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp