新時代を行く井上道義の極めつけショスタコ「第6番」
最近、井上道義が気になる。2014年には大病を患うものの完全克服、70代半ばというのに白鳥の舞のような指揮姿は軽やかさを増した。コロナ禍にあってもひときわ強烈なメッセージを発し、今もなお数々の話題を提供している。
3月の東響定期には、そんな演奏も人柄も超個性的な、ミッキーこと井上が登場する。曲はライフワークとして取り組んでいるショスタコーヴィチの交響曲第6番だ。恐怖政治が吹き荒れるなか、ソ連共産党機関紙から前衛性を批判されたことへの応答として書かれた第5番に続く作品で、鬱屈とした第1楽章にスケルツォ風の軽快な第2楽章、そしてバカ騒ぎのような賑やかさで終わる行進曲調のロンドが続く。交響曲の伝統に忠実な「第5」に対し3楽章しかなく、重々しい開始楽章には不釣り合いな後続楽章の軽さ・明るさには、この作曲家特有の風刺や皮肉を読み取ることができるだろう。そうした“作品の含み”を、ミッキーはグロテスクなまでに強調してくるのではないか。
前半にはアルゼンチン出身のネルソン・ゲルナーがベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を披露。ショパンやドビュッシーなどを得意としていた印象があるが、このところ継続的に来日して、さまざまなレパートリーを通じ才能の広がりが知られるようになってきた。ベートーヴェンは「ハンマークラヴィーア」を収録したディスクを発表しているが、色彩的な音響演出とロマンティックに揺れる歌い回しでユニークに仕上がっている。協奏曲ではどうだろうか? 個性派どうしの共演に大注目だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年2月号より)
*新型コロナウイルス感染症に係る入国制限により、ピアノのネル
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第688回 定期演奏会
2021.3/27(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp