意欲的に突き進む逸材が独創的な選曲で登場
中学3年生で日本音楽コンクールに優勝してから早10年。国内外の一流音楽家との共演を重ねつつ、今もドイツで研鑽を積む山根一仁は、日本の音楽界を今後背負っていく逸材のひとりだ。そんな山根が、20年以上の伝統を誇る横浜みなとみらいホールの人気企画「Just Composed in Yokohama」に登場。これまで錚々たる演奏家たちが出演してきた本シリーズは新作委嘱に加え、過去の委嘱作の再演を核に据えた企画なのだが、山根は練りに練ったプログラムを披露する。
挾間美帆との共演も実現
まず前半はシュニトケ、バッハ、挾間美帆という流れ。
「シュニトケの第3楽章“パッサカリア”では、B-A-C-H(バッハ)音形が繰り返されていて、第4楽章はジャズに通じる音楽になるんです。そして最後はド・ミ・ソの和音で終わります。だから、その後にバッハのハ短調のソナタと、ジャズ作曲家の挾間さんの曲を並べました」
挾間の作品は5年ほど前にモルゴーア・クァルテットのために書き下ろされたもので、今回は挾間自身の編曲・ピアノ演奏によるデュオ版として再演する。彼女のピアノ演奏が聴けるのも大きな話題だ。そして休憩を挟んで、昨年、芥川也寸志サントリー作曲賞受賞の際に男泣きして会場の涙を誘った稲森安太己の新作が続く。
「稲森さんとは一度だけお会いしたことがあるんですけど、今回やりとりするなかで本当に丁寧で真面目なお人柄が伝わってきました。すでに楽譜はいただいており、これからじっくり向き合おうと思います」
タンスマンの隠れた傑作をメインに配置
挾間作品以外でピアノを担う阪田知樹と山根は、昔からの友人だというが、本格的な共演は意外にも今回が初。稲森作品の後にはナッセンの「反射」(作曲者の最後から2番目の作品!)、そして秘曲ともいうべきタンスマンの「ヴァイオリンとピアノのための幻想曲」がメインプログラムを飾る。
「タンスマンは阪田君が教えてくれたんです。聴いたらすぐに大好きになってしまい、これは絶対やろうって最初に決まりました」
タンスマンはフランス六人組周辺にいた作曲家で、ストラヴィンスキーの影響を受けた新古典主義的な作風で知られているが、1960年代に書かれた「幻想曲」は、非常にクールな格好良さが際立つ作品。
「どんな作曲家も“この不協和音を聴いてくれ!”っていう思いで音楽を作っているわけじゃないんですよ。一番初めの音から最後の音まで、どんな流れなのかというのが音楽で一番大事。そのなかで物語がどう完結に向かうのか? そういうことを大きな音楽として表現している作品が好きなんです。僕にとってはシュニトケだって、タンスマンだってめちゃくちゃロマンティックだと思うんです」
本能も理性も刺激を受ける、他には代えがたい一夜となりそうだが、山根の姿勢は常に自然体だ。
「キャンプとかが大好きで、今も一番こころの拠りどころにしたいのは結局、大地の恵みなのかな。完璧な直角は自然には存在しないと考えたりするんですよ。演奏するときに、自然のなかにある曲線を意識したりね。そういう感覚は大事にしていきたいですね」
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2020年11月号より)
Just Composed 2020 Winter in Yokohama
―現代作曲家シリーズ― 時代を超える革新
2020.12/13(日)17:00 横浜みなとみらいホール(小)
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
https://mmh.yafjp.org/mmh/