下野竜也(指揮) 東京交響楽団

《フィデリオ》のための序曲4連発ほか、頭文字“B”で攻めるプログラム


 ユニークなプログラミングを得意とする指揮者、下野竜也が、5月末の東京交響楽団の定期演奏会でもその本領を発揮する。演奏会後半に、生誕250年のベートーヴェン唯一のオペラ《フィデリオ》にまつわる4つの序曲が一挙に演奏されるのである。本公演は作曲順とは違い、《フィデリオ》序曲で始まり、《レオノーレ》序曲第1番〜第3番が番号順に演奏される。聴く機会の少ない魅力作「第1番」も嬉しいが、なんといっても同じ素材による兄弟作と言える「第2番」「第3番」を実演で続けて聴けるのが貴重。荒削りなエネルギーの爆発が爽快な「第2番」、そこから推敲を経て磨き抜かれた「第3番」と並ぶことで、作曲法の変遷も体感できる好企画だ。もちろん下野のこと、企画だけに終わらず、熱気あふれる演奏で4曲の個性を聴かせてくれるはず。

 前半には充実著しい若き名手、南紫音との共演で、ベルクのヴァイオリン協奏曲を。十二音技法ながら情感豊か、バッハの引用も印象的な20世紀の傑作である。下野と南は以前シェーンベルクの協奏曲で熱演を披露しており、その弟子ベルクの名品ではより熟した好演を期待できる。

 さらに、演奏会冒頭のボッケリーニ(ベリオ編)「マドリードの夜の帰営ラッパ」も注目。イタリア出身、18世紀スペインで活躍したボッケリーニの曲を、20世紀イタリアのベリオが編曲した楽しい一編。過去に範をとるのはベルクの協奏曲に繋がるし、実は《フィデリオ》の舞台はスペイン。下野の仕掛けは何を生み出すのか、興味は尽きない。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2020年5月号より)

*新型コロナウィルス感染症の感染拡大を考慮し、第680回定期演奏会は延期、振替公演は会場がミューザ川崎シンフォニーホールとなります。(5/13主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

第680回 定期演奏会 
2020.5/30(土)18:00 サントリーホール
第119回 新潟定期演奏会
2020.5/31(日)17:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
http://tokyosymphony.jp